『古本屋の女房』 田中栞

表紙の、あふれんばかりの本に、まず圧倒されました。いつ崩れても不思議じゃないたくさんの本。しかも背が見える本は、そのタイトルや装丁などまでしっかり描きこまれている。
暇に任せて読んでみれば古書大全」「古本とともに生きて」「古本三昧」「古書訴訟法」・・・
これ、作者が描いたもの。表紙だけではありません。
ちょこっとコメントのついたたくさんの味のある挿絵(特に本のなかのお子さん達の絵)、それから、ページをあらわす数字の脇の小さな小さな本のカット。まるでコマまんがのように、章ごとに絵が変わっていく、すみずみまで凄く凝っています。

作者田中栞さんは、古書店黄麦堂の女房です。古本屋としての彼が好き、お店も彼にまけずに魅力的、と言う理由で結婚した田中さん。
この本は古本屋のノウハウ、経営の苦労話やら、お店でのさまざまなエピソード、人間模様・・・などを書いた本ではありません。,わたしはそういう本と思った。でも全然ちがいました。
古本フェチの田中さんが、日本全国津々浦々、古本屋めぐりをした記録。それもひたすら自分の道楽(ちょいとお店のためというプラスアルファを匂わせつつ)のため!
大きなキャリーバッグを引きずって、一日中、何軒もの古本屋をはしごしまくり、大量の本を買う。
子供が生まれたら、子連れで。ぐずれば、漫画を買ってやり、お菓子やおもちゃを買い与え、・・・うーん、羨ましい・・・あ、いえ、お子達よ、あなた達も大変な親持ったねえ。

好きなのは、大阪で古本屋めぐりをしたとき出会った友宏書店のおばあちゃんのくだり。 92歳、老人ホームに入ったものの自分の店が心配でホームを出てきて店の帳場に舞い戻った、娘さんに言わせれば「筋金入りの頑固者」
それでも、作者親子が店に入れば、「暑かったろう」と子供を扇風機のしたに呼んでくれ、横浜からはるばる来たといえば、「この本いい本だから持っていきなさい。お嬢ちゃんには漫画あげようか。」
角田光代の「この本が世界に存在することに」のミツザワ書店のおばあちゃんをふと思い出しました。
町の片隅で営業する、ひたすらその道の古本屋さんには、大型新刊書店にはないひなびた温かみと人情があるような気がします。

最後の章「四面書架の古本売買」ではどきんとして、不安になったけど、あとがきを読んでちょっとほっとしました。

古本屋めぐりしたくなってしまいました。
町の路地裏の、すごい迫力で本が積み重ねてあるような古本屋さん。自動ドアもトイレもない古本屋さん。
本って道楽だよね。道楽だから好きでいられる。
ご贔屓のスポーツチームを応援したり芸能人をおっかけたり、レアものの雑貨を集めまくったり・・・そんな気持ちわかるわかる、わあ一緒!と、ひたすら夢中で本に浸りたい。
でも、正直、この作者ほどにはのめりこみたくない――というところまで徹底した「パラノイア的古本屋フェチ」(本人曰く)には、もう感服でございます。おもしろかった!!