『10月はたそがれの国』 レイ・ブラッドベリ 

短篇が19編入っている本です。
原題は「THE OCTOBER COUNTRY」 これを「10月はたそがれの国」という邦題に替えるなんてセンスあるなあ、と思います。
しかし、正直、この本はちょっと苦手な物語が多かったです。暗くて、ぞくぞくして、なんだか異様な雰囲気。・・・何と言ったらいいのか、独特の雰囲気なのです。そして、最後に「ぞぉ~っ」のダメ押しをしてくれるような作品ばかりでした。
「たそがれは逢魔が刻」というけれど、一年を一日に喩えれば10月って夕方にあたるのかも、
ハロウィーンなんかあったりしてね。魔物が似合う月なのかもしれません。

「次の番」「骨」「壜」なんてのを続けて読むと、もうくたくたになってしまって、読むのよそう、と思ってしまいます。気持ち悪くて、背中がじんわりと冷たくなるような怖さなのです。
(だけど、不思議に雰囲気があるから、一概に切り捨てられなくて困る)

同じ「ぞぉー」であっても、これはかなり好き、というのが「みずうみ」と「使者」・・・情景が美しくてほとんど詩的な感じ。主人公の感情の微妙さもいいです。ちょっと寂しげな感じも。最後はやっぱり、・・・突き落とされるんですけどね。それも悪くないです。「みずうみ」はことに、「ぞぉー」のあとに余韻が残る感じです。

「二階の下宿人」では、ダグラス・スポールディングという男の子がでてきます。あ、「たんぽぽのお酒」の主人公といっしょ、と思います。おじいちゃん(新聞記者)も、料理好きのおばあちゃんもなんとなく、「たんぽぽのお酒」の家族の雰囲気。・・・だけど、全然違いました。このダグは・・・こわい。

好きなのは、「アンクル・エナー」と「ダッドリー・ストーンのふしぎな死」です。
「アンクル・エナー」のラストシーンの上昇する雰囲気が好きです。マーガレット・マーヒーの短編集「魔法使いのチョコレートケーキ」(極上品!)に、これによく似た雰囲気のお話があった(雰囲気だけ。まったく違う物語です)と思ったりして。
さらに、ここででてきたエナーおじさんが別のお話でも出てくるのですが、この人はほんとに素敵な人。
そして、「ダッドリー・ストーンの不思議な死」・・・いきなり超売れっ子小説家ダッドリー・ストーンが死んだ、というニュースから始まるこのお話。この死がすばらしい。ストーン氏の話にいちいち頷きながらも、幸福の意味を考えずにいられません。
ブラッドベリ自身が、こんな「死」を望んでいたのかな、とちらっと思ったりしました。
また、このお話が最後に配されているのがすてきだな。と思います。
・・・そうですか。それじゃ、幕をひいてくださいな。わたしも読者の席を立つことにします、と言いたい感じ。

途中、「もう読むのやめよっかなー」と思うたびに、ところどころに、ちょこちょこっと好みの作品を配置してくれるので、やめられません。そして、全体が妙にブラック(詩的にブラック)な感じのなか、このいくつかの美しい作品がわたしには、光って見えるのです。
でも、次の作品を読むのは、もうちょっとあとにしようかな~。