最初のページを開いた瞬間から、歌うように物語の世界に、森の瑞々しい緑の空気のなかに引き込まれていきます。
>耳をすまし、あたりに目をくばり、川と川岸の、
この小さな世界をみださないように、
足音をしのばせて、すすんでいきます。
そのようにして、出会うのは
みずはたねずみが残した痕跡、ますの集会所、カエルの王国、八年がかりのうなぎの冒険旅行・・・森の営みは不思議な活気に満ちています。
森を奥へ奥へと進み、そうして、やっとかわせみのマルタンに出会うのです。美しく鮮やかな空よりも青い青、その峻烈な羽ばたき。なんと鮮やかな登場。
マルタンは妻のマルチーヌとともに巣作りをし、互いに助け合って子育てをするのです。6年にわたって誠実にひたむきにくりかえされる夫婦の物語。
>この二羽の鳥は、二本ならんでとんでいる矢のようです。
けっして、はなればなれになりません。
ねむるときも、とぶときも、漁をするときも、二羽は、よりそっています。
やがて、月日が流れて、マルタンは病気になります。夫婦がよりそう最後の日々。
>一羽が死ねば、あとの一羽は生きていかれないというほど、
かわせみたちの愛情は、ふかく、つよいのです。
・・・・・・
これほどに簡潔に深い愛情と絆を語る場面を知りません。「セイクス、セイクス」という声に、胸がいっぱいになってしまうのですが、
でも、物語はこれで終わりではないのでした。
やがて訪れる森の春。新しい命のバトン。
刺激的な言葉はひとつもない。この小さな限りある命の輝き。大きいものも小さいものも、力あるものもないものも等しく与えられる命に感動します。森は春。この余韻・・・
「余韻」と言ってしまっていいのでしょうか。簡潔な文章で、ここまで豊かに歌い上げられた命の神秘の物語です。