『神も仏もありませぬ』  佐野洋子

64歳の佐野洋子さんの日常を綴ったエッセイ。
佐野洋子さんの絵本は好きです。
ちょっと意地悪で頑固者のおじさんが実はとってもピュアで純粋だったり、
上品でおとなしそうなおばさんが実はすごく豪放で太っ腹だったり、
大人子供した、どうにも訳知りげな猫がいたり…
こうした佐野さんの絵本のたくさんのキャラクターたちがみんなこのエッセイのなかにいるような気がしました。

開き直ったような明るさと強さを感じる佐野さんの日常。
64歳の佐野さんと、農家のアライさん夫妻、サトウ君・マリちゃん夫妻、養蜂業のフルヤさん・衿子さん夫妻、マコトさん、ソウタ等とのお付き合いは、まるで小学校の卒業旅行のようで楽しそうです。
なあんだ、いまのわたしと同じじゃない。20年前のわたしと同じじゃない、30年前と同じじゃない。こうやって、わたしは全然変わらずに年だけをとっていくのかな。だったらこのあと20年たってもこのままなのかな。(それもちょっとおそろしい)
それでも、こんな日常が待っているなら、年を取るのも悪くない。泰然自若なんかヘノカッパって感じの佐野さんの文章を読んでいるとわたしだって開き直りたくなります。

でも、ほんとうはこのあっけらかんとした明るさの向こうには確実に死がある。死があるってことは生がある。
佐野さんの目はちゃんと生と死をみつめている。
そして開き直って不機嫌に生きているのがすてきではありませんか。

94歳になる、彼女の友人のおかあさんのことばが好きです。
>「洋子さん、私もう充分生きたわ、いつお迎えが来てもいい。でも今日でなくてもいい。」