『ほんとうの空色』  バラージュ・べーラ

貧しい母と二人暮らしの少年フェルコーは、友人から預かった藍色の絵の具を失くしてしまいます。
正午に一分間だけしか咲かないという不思議な青い花の汁で作った青い絵の具で空を描くと、その空には本物の太陽や月が輝き、雲が流れて、雨が降りました。
この絵の具がフェルコーの日常に物語をもたらし、彼は忙しく動き回ります。

静かであっさりとしたお話ですが、それはそれは印象的な物語です。物語に色がある・・・
塗るだけで本物の空になってしまう絵の具だなんて、それだけで、わくわくしてしまいます。

様々な事件の中でも、大きな木箱の裏側を「ほんとうの空色」で塗るところが好きです。
箱の中に入って蓋をしめると、そこには自分だけの空がある。自分だけの世界がある。
うちの子どもたちが小さい頃、たまーに大きな段ボールの箱をもらうとよく中に入って、ずうっと一人で遊んでいました。
自分が作った世界。自分だけでいられる世界。

しかし、子どもはやがて、そこから出て行きます。外から聞こえるたくさんの声に誘われるように。
フェルコーもそうでした。
少しずつ「ほんとうの空色」を失くしながらフェルコーもまた成長していきます。
子どもが成長するということは、それまで大切にしていた世界を少しずつ少しずつ手放していくことなのだと、この本は言っているような気がします。
最後に残ったのは、半ズボンに落ちた絵の具のしみの青空。
フェルコーの大切なこの最後の小さな小さな空もまた捨てるときがやってきます。
すべての「ほんとうの空色」絵の具を失った時、フェルコーは、ある場所で、いつまでも消えない自分だけの「ほんとうの空」を発見します。
フェルコーの少年時代との別れの日です。

鮮やかです。
ぐーんと盛り上がる場面があるわけではないけれど、この本もまた、子どもの頃に出会っておきたい本だと思いました。
子どもの目の奥に焼きつくにちがいない「ほんとうの空色」。
大人になってしまった読者は、フェルコーが最後に見た空が永遠に続くものではないだろうと感じてしまいます。
ほんとうの空色は脆く儚いものなのかもしれないと。
それだからこそ愛しいものなのだということも。