『シェパートン大佐の時計』フィリップ・ターナー

デイビドは、建具職人の一人息子。
彼の父の仕事場には、先代の祖父が50年前に修理のために預かったままの大時計が、そのまま納品されることなく置かれていた。
時計の修理を依頼したシェパートン大佐は取りに来なかった(来られなかった)のだ。 ダーンリー・ミルズの三人の少年たちは、この時計にからむミステリーに気がつき、冒険心を掻き立てられていく。

三人の少年たち。
農場の一人息子、アーサー。忍耐強く且つ大胆に行動するスポーツマン。茶目っ気(ときどき行き過ぎる)があり、友情に厚い少年。
牧師の息子ピーターは発明家。「魔術師の巣」と名づけた隠れ家でいろいろとやっている。(発明、というよりは、形あるものを壊しているのではないかと…)
そして、前述デイビド。物語好きな夢想家。物事をじっくり考える子ども。足が悪く、皆と同じように走ったり飛び上がったりできないことにコンプレックスを持っている。

三人の冒険大好きな腕白坊主が互いに相手の気持ちを気遣う無言のやさしさをしめしながら、今、この町にいないシェパートン大佐が何者だったのか、地図から消えてしまった大佐の住まい、また、なぜ大佐が消えてしまわなければならなかったのか・・・解き明かしていく。

秘密の教会の塔の冒険、大事なところが切り取られてしまった古い新聞記事、埃の匂いのする教会の塔の時計室や古い農家の納屋・・・駆け回る少年たちの生き生きとした息遣いが聞こえる。

この本の中に漂う少し古いイギリスの田舎町の匂いが好きです。
少年たちのいたずらに手を焼きながらも見守る大人たち。お茶に出るおいしいご馳走。農場の芳しい匂い。
聖歌隊の練習に精を出し、サッカーの試合に一喜一憂する少年たちの日常。

デイビドの成長の物語が、このミステリーがらみの冒険の底に流れていく。
手術をする決心をするデイビド。
その後の一歩を踏み出せないデイビド。
最後の冒険で、デイビドの心の中で、あの人の存在が力強く彼を励ます。いつのまにか乗り越えていくデイビドの姿に感動する。
わたしもまた、このとき初めて、あの人の存在を実感できました。「良き人」として。

子どもの時(主人公たちと同年齢の頃)この本に出会いたかったなあ、と思った。
この三人が活躍する物語、三部作だそうで、あと二冊楽しめそうなので、うれしいです。