『ヒキガエルがいく』パク ジォンチェ/申明浩、広松由希子(訳)

 

ヒキガエルがいく

ヒキガエルがいく

 

山並みが見える。手前の草のなかから、一匹のヒキガエルが現れる。
トン、とひとつ太鼓が鳴る。
ヒキガエルがはねる。まじめくさった顔をして。いぼだらけの背中して。水掻きのある前肢と後肢。
ト トン、と太鼓が鳴る。
続いてヒキガエルが現れる。またヒキガエル
次々にヒキガエルが現れて、次々にはねていく。
太鼓が鳴る。
トトトン トトトン……
ドンドン
ダンダン
ワラワラワラ……


何匹、何十匹(もしかしたら何百匹)の蛙たちが、いったいどこからどこまでいくのか、
太鼓の音を背中にしょって、ヒキガエルたちは前へ前へと進んでいくのだ。
草原を進み、フェンスの金網を登り、車の往来する道路を渡り……
その間、文字といったら太鼓の音だけ。
ほかに、何の言葉もないこの絵本のページから、蛙たちのひたむきさ、がむしゃらさが、ドンドン、ワラワラと、響いてくる。
ただただ、それだけの絵本、それだけの詩。それだけでいい。それだけでじゅうぶん。それだけで、ヒキガエルたちは、祈りのようなものに変わる。


最後に作者の詩が載っている。
ヒキガエルがいく」という詩。トンと現れて、ドンドンダンダンと進んでいったヒキガエルたちの詩である。
この詩が、これまで読んできたページの太鼓の音と響きあう。


一番おしまいのページに作者の言葉がある。
「たいへんなことがあっても、また起き上がり、てくてく歩きだせますように」