『大きなたまご』 オリバー・バターワース

 

大きなたまご (岩波少年文庫)

大きなたまご (岩波少年文庫)

 

 ★

ニューハンプシャー州の静かな田舎町フリーダムの、トウィッチェル家の鶏小屋で、めんどりがとてもとても大きな卵を産んだ。はかってみたら、まわりが38センチあり、重さが1.5キロもあったのだ。
あまりに大きくて重たくて、雌鶏は、卵をひっくり返すことができないので、この家の息子十二歳のネイトが小まめにひっくりかえして、世話をしていた。
普通なら三週間ほどで孵るはずの鶏の卵が五週間たってもさっぱり孵らない。もう永遠に孵らないのではないか、とあきらめかけていたネイトだったが、ニューヨークから避暑に来ていたドクター・チーマーが、これが自分の思っているものの卵であるなら、あと一週間くらいで孵るはずだ、と言ったのだった。
チーマー先生の予想通りに、卵は孵る。卵から現れたのは・・・


生まれたのはアレだ。
表紙の絵を見て。
割れた卵を中心にして、みんな驚いているでしょ? でも、卵の中身はわからないように描いてあるでしょ?
だから、難しいけれど、わたしも、このあと、ずっと「アレ」でいこうと思います。
書けるかな。


ネイトのところで、大きな卵が孵ったことが話題になり、フリーダムには、たくさんの人々が押し寄せてくる。
静かな田舎町が大変なことになる。
遠くの州からも、カナダからも。
だれもが、自分にとってアレがとても重要な生き物であることを知っていて、ネイトから簡単に譲りうけるつもりでいる。研究のため。ビジネスのため。
ネイトのような子どもにはアレは手に余るだろうし、何よりもネイトには必要なはずがないのだから。
けれども、ネイトには必要だったのだ。理由は、ただ、いっしょにいたい。それだけが最も大切なことだった。
わたしは、ネイトとアレが散歩する姿が大好きだ。


条例にアレについては触れられていないから撤去せよ、という警部。
役に立つか立たないかだけが問題で、役に立たないなら不要=処分すべし、という政治家。
ネイトは、チーマー先生という味方を得て、難題をひとつひとつ乗り越えていく。


鶏が産んだ見たこともない大きな卵。
そこから生まれてくるものへの期待。
生まれてきたらそれは実際期待を裏切らないものだった。
さらに、それはほかならぬ自分(自分と等身大の主人公)のペットなのだ。
このはちきれんばかりのわくわく。喜び。


古き良きアメリカ。
ネイトのまわりの大人たち(味方だけではなく)が、子どもである彼の権利にちゃんと敬意をはらっているように思えることなどが、気持ちよい読後感を運んでくる。


生きものが大好きな子と一緒にワクワクと楽しんだ思い出深い本ですが、長い間品切れでした。
岩波少年文庫の一冊になって、この本が帰って来てくれて本当にうれしいです。