『平凡』 二葉亭四迷

平凡 (青空文庫POD(ポケット版))

平凡 (青空文庫POD(ポケット版))


二葉亭四迷
その昔、テストのためにだけ覚えた名前で、その作品を読みたい、と思う日が来るとは思わなかった。この本のことが『ハラスのいた日々』にでてこなければ,ずっと読むことはなかったと思う。


主人公が少年のころに飼っていた犬ポチのことが描かれている件が読みたかったのだ。
出会いの瞬間から、ころころした子犬への愛おしさがこみあげる。毎日学校に迎えにくる子犬は、まるでかわいい弟のようではないか。
犬の飼い方が、今の時代よりも自由なぶん、危険も多かったし、何かあっても「しょせん犬、たかが犬」という考え方が一般的だっただろう。犬のために大っぴらに嘆き悲しむことも、憚られたのかもしれない。あまりに残酷な別れは、本当に辛かった。


>題は「平凡」、書方は牛の涎。
と書きだす。平凡、なのかな、この男の半生は。
地道に生きることを、即ち平凡、というわけではないのだな。
しかし、なんだか情けなく、力が抜けていくような平凡である。
ヒトの善意をあてにして、そのくせ、相手をちょっと上のほうから馬鹿にしてみている主人公の態度は思いきり不快である。
さんざん身勝手に生きてきて、あんなことになってしまって、「人間がふやけて、秩序(だらし)がなくなって、真面目になれなかった」と、自省しているようなのに、そこで文学のせいにしちゃうのか。


最後にでてきた文学への批判は厳しく苦い。
その一方で、「そんなはずはないだろう、しっかりしろ文学界」との呼びかけのようにも感じられるのだけれど、甘いのかな。どうなのだろう。