『肥後の石工』 今西祐行

肥後の石工 (岩波少年文庫)

肥後の石工 (岩波少年文庫)


石工・岩永三五郎とは実在の人物だそうです。
鹿児島県甲突川の石だけで作るアーチ型の眼鏡橋五橋をはじめとして、数々の見事な石造りの橋を架けた、名工だそうです。
150年前の架橋技術に恐れ入り、
弱いものが当たり前のように利用され踏みつけられ、騙され、命を奪われ泣き寝入りするしかない理不尽さを悔しくも悲しくも思う。


そのような時代に、ただ誠実に生きた一人の職人を清々しく見つめます。
三五郎の周りの人々、それぞれに事情がある。
追うもの逃げるもの。殺したもの殺されたもの、憎む者憎まれるもの・・・どの人も皆名もない小さな人々。
だれをも責めることなんてできないのだ。みんな強い力に利用されて捨てられた人々なのだ。
三五郎自身もまた言われない痛み苦しみを耐えている。
そうした彼らが橋を架けるために集まっている。


三五郎を中心にして、橋を架ける物語である、ということは象徴的だと思いました。
一つの橋が完成し、木組みの五本柱が轟音とともに落ちる。それを見つめる人々の心にはどんな橋が架かったことだろう。


サトクリフを読んだような充足感、と言ったら、今西祐行さんに失礼だろうか・・・