ジャングル・ブック

ジャングル・ブック (福音館古典童話シリーズ)

ジャングル・ブック (福音館古典童話シリーズ)


有名な物語なので、内容も知っているつもりでいましたが、こういう物語だったのか。
モーグリを主人公にした連作短編でした。どの物語もおもしろい冒険譚で、同時にモーグリ少年のちょっと変わった成長物語にもなっています。


インドのジャングル、そこに暮らす動物たちの生態など、なんとなくおかしいなあ、と思うところはあちこちにある。
それは横に置いて、この世によく似た異世界の物語、異世界ファンタジーとして、楽しみました。


狼に育てられた人間の子モーグリは、成長するにつれて、人間なのか狼なのかわからなくなります。
あるときは、どちらでもあるし、あるときは、どちらでもない。
宙ぶらりんの悩み、孤独の深さがせつない。
彼の苦しみを身をもって理解できるものはどこにもいないのだから。
きっと、特別な話ではない。人は青春期に一度は「自分とは何なのだろう」と悩むものではないだろうか。
それなら、モーグリの悩みは、彼がまぎれもなくヒトであることを証明していることになるのかもしれない。


力と厳しい掟がすべてであるジャングルに比べて、人間の社会の残酷さや狡さが際立ちます。
以前読んだマーク・ローランズ著『哲学者とオオカミ』の、狼の社会とサルの社会の対比をちょっと思い出しました。
(同じ人間とはいえ、白人の社会はインドの農村に比べて理想郷であるような書かれ方が、時代(と、キプリングのイギリス贔屓)を反映しているのだろうな。)
どちらの社会が優れている、ということではなく、それぞれの性質をありのままに受け入れ、そのうえで、よりよい生き方ができればいいのだけれど・・・


自然の掟と人間の知恵とがミックスされ、
さらに、モーグリと兄弟の絆を結んだ動物たちとのチーム・プレイで、強大な敵を倒す物語はなんとも言えない爽快さ。
ニシキヘビのカー、くまバル―、黒ひょうのバギーラ、一緒に育った兄弟狼たち、老狼アケーラ・・・
モーグリの個性豊かな仲間たちの名前をひとりひとりあげていくと、なんだか懐かしいような気持ちになってくる。


このはてしない空の下、自分の主人は自分であること、価値あるものは命だけ、というシンプルで厳かな自由さ、
モーグリの大胆な自由の謳歌がたまらない魅力だ。
気持ちが晴れやかになり、ぐんと四肢が伸びるような気がする。


図書館に予約中の『タイガーズワイフ』に、この本は関係があるようです。
まだまだまわってこない本を待ちながら、予習のつもりで読みました。