チボー家の人々(1)灰色のノート

チボー家の人々 (1) (白水Uブックス (38))

チボー家の人々 (1) (白水Uブックス (38))


高野文子さんの『黄色い本』を読んでから、いつか『チボー家の人々』を読んでみたい、と思っていた。
わたしが若い時に出会った『黄色い本』に当たる本は、もちろん他にある。きっとだれにでもあるのだと思う。
でも、高校生の実也子さんの『黄色い本』に、わたしはいつか出会いたい、とおもった。
実也子さんが読んだようには、私は『チボー家の人々』を読めないかもしれない。
でも、
「ジャック
家出したあなたがマルセイユの街を
泣きそうになりながら歩いていたとき、
わたしがそのすぐ後を歩いていたのを知っていましたか?」
と言った、実也子さんのその後ろを、わたしもちゃんと歩いてみたいと思った。
それがきっかけだったけれど・・・
白水Uブックスで13冊! 分量に恐れ入って、思いだけを持って約二年が過ぎたのであった。
最後までたどり着けるだろうか。
ゆっくりゆっくり読み進めていこう。



一巻目なので、まだ始まり。感想を書くには早いけれど、メモを…。


二つの家族が主な登場人物。
○チボー家(カトリック
 チボー氏。 たくさんの肩書を持った名士、忙しく厳格な印象
 アントワーヌ。 長男、若い医師
 ジャック。 次男、14才


○フォンタナン家(プロテスタント
 ジェローム。 父親。登場するのは後半。ほぼ留守。浮気者
 テレーズ。 やさしい母親。 
 ダニエル。 長男、14才、ジャック・チボーの親友。
 ジェンニー。 ダニエルの妹、12歳。


14才のジャック・チボーとダニエル・フォンタナンが家出する。
彼らの家出をめぐって、両家の特徴や雰囲気などが、明らかになってくる。
時代は20世紀の初頭。
両家がカトリックの家庭とプロテスタントの家庭、ということは大きな意味があるみたい。
この当時のパリでは、二つのキリスト教は対立しあった関係にあったようで、双方はあまり付き合いがなかったようだ。
チボー家のほうは、あからさまにフォンタナン家を見下している感じで、
なんとなく二つの家庭には微妙な空気が漂う。(外からではわからないいろいろな問題がそれぞれの内部では進行しているようだし)


『黄色い本』の影響で、ジャックは、その名前が出てきたときから気になる存在。
一言でいえば劣等生なのだろうが、激しく偏っている。自分でも持て余すほど直情的なところがあるが、純情で愛情深い。
家では禁じられているせいか、文学に渇き、純粋な憧れが強い。抜きんでた詩の才能もある。
家庭の中での彼の孤独がたまらない。
たぶん、愛し方が下手な一家なんだ。
父は模範生的なアントワーヌを可愛く思っているが、ジャックに対しては戸惑っている。
でも、(予想だけれど)もしかしたら、父とジャックは似たもの同士なのではないだろうか。ともに不器用。


一方、ジャックの親友ダニエルは誠実で真面目。母の愛情をたっぷり注がれてバランスよく成長したように見える。
ただ、意志が弱い。
この、あまりに幼い家出は、二人の少年に苦い成長を促したように思えるが、ことにダニエルにとって。
ダニエルは、あっという間に少年期を脱しなければならなかった。
でも本当はこんなふうに、こんな方向に、脱してほしくはなかった。
自分の意志ではなく、流される(真面目で優しい彼にはこの言葉もきっと辛い)ようにして、急速に少年期を離れたこと、
これを世間知らずの彼のせいにするのはあまりに酷だ。


家出のきっかけとなったのは、二人の少年の交換日記「灰色のノート」
この交換日記につづられた二人の少年の若さ、純粋さ、ひたむきさが、せつないくらいに眩しい。
本来、一人で悶々と悩むこと、ひっそりと憧れることを、気恥ずかしさを感じることなく、
情熱の赴くままに語りあえたこと、共感し合えたこと、互いに(幼いなりに)高め合おうという思いがあったことをかけがえなく思う。
魂の友とも言える存在のある少年時代が、羨ましいほど。
これを邪にしか受け取れない指導者たちの薄汚さには気分が悪くなる。そのためにさらにこのノートの透明度が高く思えた。


若者の思いきった行動は、眩しい。でも、その代償はいったいなんだったのだろう。
苦い方向に変化を強いられた二人は、これからどう成長していくのだろう。