なのはな

なのはな (フラワーコミックススペシャル)

なのはな (フラワーコミックススペシャル)



五つの作品のうち、最初と最後のナホちゃんの物語が好きです。
切なくて、美しい。鎮魂の物語であり、静かに希望に続いていく物語でした。


ナホちゃんがなのはなの種をまいている。
実際に、植物を植えることが除染にどのくらいの効果があるかはわからない。
だけど、大事なことは、そういうことじゃないのだと思った。
ナホちゃんは、
大切なものを失った家族みんなの心に花の種を根付かせようとしている。
ナホちゃんが種をまいたのは、土の上じゃなくて、この国に住んでいるわたしたちみんなの心の中だ。
そう思ったとき初めてわかった。私の心には花が必要だった。


「今は、きれいで美しいものは描けないと思った」と言われる萩尾望都さん。
読みながら、萩尾望都さんの迷い、手探りが伝わってくるように感じる作品ばかりだと思った。
正直、荒削りなように感じる部分もあったのです。
だけど、混乱の中で必死で何かを探そうとしているような気がしました。伝えようとしているように感じました。
誠実に。真剣に。


あの日のあと、人の心も、悲しみと苦しみと迷いに閉ざされた。除染が必要だ、と感じることもあるほど。
その心に、萩尾望都さんは花の種をまこうとしたのだろう。
その試みをうれしく思う。
ありがとう・・・


種が芽をふいて、たくさんのなのはなを咲かせてくれることを夢に見る。
夢見つづけたいと思う。長い時間かかっても、きっと花が咲くと信じたい。
わたしたちの心には、なのはなの種があると。