バルザックと小さな中国のお針子

バルザックと小さな中国のお針子

バルザックと小さな中国のお針子


文化革命下の中国。
それがどういう時代だったか・・・読んでいるだけで気が滅入ってくる。・・・のだけど、なぜか明るい。明るいけど苦い。苦いけど甘い。 
主人公の小知識人二人が、ぞくぞくするくらい素敵な、最強のコンビなのだ。
互いを補い合って助け合って、時に、大胆に敵(?)を出し抜き、困難な早瀬をしたたかに泳ぎ渡っていく。
したたかでありながら、思いがけず純情であり、ちらほらと顔をのぞかせる育ちの良さがほほえましい。


この物語は、おぞましい時代や権力への皮肉だろうか。
それから、底から突き上げる微力なものたちの小さな勝利の賛歌でもあるだろうか。
さらに、若者たちの不器用にして甘やかな初恋の物語、青春記である。
文学や文化への焦がれるような憧れの物語でもある。
誇りの物語である。
こんなにたくさんの「好きになるしかないじゃない」の要素があふれているのだもの。
読後感はよいに決まっている。からりと清々しい。


あの手この手で「本」を入手しようとする二人の健闘を笑いつつ称える。
そのひたむきさがかわいらしくて、可笑しくて仕方がない。
したたかだけど、お人よしだね。
がむしゃらで先の見通しが甘いところも可愛いのである。
そして、何よりも、自分自身を笑い飛ばせるって、すごいことだと思うのだ。


さらに、女は強い、と唸る。
小裁縫の魅力・成長は言わずもがなだけど、もう一人、忘れられないおばさんがいた。
彼女は、再教育の息子のカバンにこっそりと禁書を詰めて送り出す。
編み物をしていると見せかけながら、頭の中で(禁じられた)詩をつくっている、という。
ふてぶてしいくらい逞しい詩人である。
見事だった。
作者は、未来への希望を女たちの手に託してみせたか。ふっふっ♪


空は高いわ、きれいだわ、ね。
きっとトンビも飛んでいる。油揚げ咥えているかどうかは知らないけど。