シカゴよりとんでもない町

シカゴよりとんでもない町シカゴよりとんでもない町
リチャード・ペック
斎藤倫子 訳
東京創元社

>ダウデル夫人に謝らなくてはなりません。第二作『シカゴより好きな町』を訳しおえたとき、わたしはこのシリーズはこれでおしまいだと思いました。     (「訳者あとがき」より)
ほんとにほんとに。
そして、ダウデル夫人、訳者の言われるとおり、
「衰えを見せるどころか、ますますたくましくなっているようにさえ見えます」にも同感で、
こんなにうれしい再会はありません。
・・・ありません、のですが、少しさびしい・・・孫のジョーイもメアリ・アリスもここにはいないのだもの。
時は1958年。『シカゴよりこわい町』『好きな町』が禁酒法から大恐慌の1927年〜37年の物語だったことを思えば、
ジョーイもメアリ・アリスも最早いっぱしの大人。
家庭を持ち、子どもたちの心配に明け暮れている姿なんて、あまり想像したくない。
そう思えば、出てこなくて正解・・・かもしれないけど、やっぱりちょっとさびしい、と思ったのでした。


ダウデル夫人は、町はずれのあの一軒家に今も一人で住んでいる。しかも90に手が届こうという高齢・・・
と言われれば、おなじみの面々に会えることもないだろう、町の人々もずいぶん様変わりしてしまっただろう、と思い、
それもまたさびしい。わかってるって。ダウデル夫人がさびしがってるわけないってこと。
でも、読者のわたしが勝手にさびしいんだよ。
・・・と思っていたのもつかの間でした。なんと、びっくり、うれしい。
エフィ・ウィルコックスさん、お久しぶり〜。お元気そうでなによりです^^
銀行家夫人のワイデンバッハさんも、元気にご活躍ですね。
かのバーディック一家は代がかわったものの、相変わらず町の鼻つまみ者として不動の位置にいます。
マッジ・バーディックおばあさんは、『シカゴより好きな町』のミルドレッド・バーディックのおばあさん、
ミルドレッド曰くの「酒は瓶からじかに飲むし、蚤がよってこないように体にタバコのやにを塗りたくっている」おばあさんでしょうか。
彼女も、ぴんぴんしていました!
いやあ、なつかしいなあ〜〜。里帰りした気分です〜。(このあくの強いおばあさまがた、永遠の若さを保つ魔法をご存じの魔女かもしれない)


窓も屋根も壊れた貧相な教会。信徒はいるはずなのに、礼拝にやってくるのはまばら・・・という教区に赴任してきた牧師一家。
ダウデル夫人のお隣さんになってしまった。
三人の子ども(14歳、12歳、6歳)の、真ん中のボビーが語り手です。
気難しく教会嫌い、武装までしているというダウデル夫人の家には決して近づくな、と言われたにもかかわらず、
何かと悪目立ちするお隣さんに関わらずにいられるわけがないじゃないですか。
最初はおそるおそるだったのに、そして、決して強制されたわけではないのに(ない・・・ですよね、確かに)
いつのまにか夫人のペースに巻き込まれていきます。
そうなると、どうなるか・・・
これまでの二冊を読めば、わかろうというもの。
ダウデル夫人という人が、決して忘れられない、かけがえのない人になるのです・・・


ボビーの見聞きしたことが、ボビーの言葉で、そのまま語られるので、ボビー以外の登場人物たちの感情を表す文章はまずありません。
ただ事件だけが語られるのです。
でも、ちゃんと伝わってくる膨らみ。
その場にいた人たちの一枚も二枚もしたに隠された気持ち、事件の裏の裏。
わかるけれども、事件の当事者ではなくて、あくまでも傍観者・野次馬でいられる。
(エフィ・ウィルコックスさんの後ろからちゃっかり覗き見して、にこにこしているような気持ちだ。)
ダウデル夫人、だてに年を食っているわけではない。
町じゅうから恐れられつつ一目置かれているのは、たぶん武装した豪傑だから、というだけではないはず。
人を見る、とてもよい目をもっています。
そして、物事や、人をあるべき場所(?)におさめる敏腕家でもあります。
ただ、そのやり方がちょーっと・・・大胆で強引で・・・ごにょごにょ・・・
まあ、誰もが満足というわけにはなかなかいかないだろうしねーっ。


それにしても・・・
ジョーイもメアリ・アリスも去って行った。そして、ボビーたちも・・・
ダウデル夫人だけが変わらないまま、彼女に触れた人たちは、みな変わっていく、過ぎ去っていくのです。
それでも彼女は超然としている。
これからもきっと彼女(と彼女のまわりの元気な老女たち)に、もみくちゃにされ、
忘れられない思いを抱いて巣立っていく若者たちがたくさん現れるにちがいない。
変わっていく者にとっては、ずっと変わらない(ゆるがない)存在があることを信じられるのは嬉しいです。
いつまでも元気で・・・と言う必要もないね。ずうーっと元気に決まってるじゃん、と思えるから。


PS、牧師様。
告別式のあの詩、とてもよかったです。