消えた少年たち(上下)

  
消えた少年たち〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)消えた少年たち〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)消えた少年たち〈上〉
消えた少年たち〈下〉
オースン・スコット・カード
小尾芙佐 訳
★★★


平凡な家族・・・というよりは愛情深い家族。
生活のために引っ越してきた小さな町。
今まで住んでいたところとはまったく勝手が違う戸惑い。
すでに出来上がっているコミュニティって、外から見たら、
「それはどう考えても変でしょ」或いは「平等とはいえないよね」と思うところで、
なんとかやりくりして、まとまっていたりするものなのだろう。
そこに入っていくという事は、受け入れる側も入っていく側も、ものすごいストレスなのかもしれない。
・・・にしても、ちょっとあまりにも極端な世界なんだけど。
次々に浮かび上がる齟齬に不安で不安でたまらなくなる。
家族一人ひとりが自分の「敵」と向かい合いながら互いに助け合いながら切り抜けていくのだけれど、
何かが起こるたびに不安で不安で仕方がなくなる。
このまま終わるはずがないよね。何も起こっていなそうで、何か大きなことが知らないところで進行しているようで怖い。
何もまだ見えない。これからどうなっていくのかな。


・・・と、上巻を読み終わった時点で感想をメモしておきました。そして下巻を読み終えて。


そういうことだったんだ・・・
たくさんの涙を流して、思いがけない展開、思いがけない収束に、呆然。
目に見えない大切なものが、読み終えたときにこぼれおちてきたように感じました。
そうは言っても、やっぱり納得できない。ここまでくれば、称えるしかないじゃないか。実際そのとおりだもの。
だけど、本心。どんなに尊くても、そんな勇気を持たなくてもいい・・・持たないでほしい。


この結末は、間違いなく心に残る。ここに到達するまでのまなざしや言葉などが繋がり、当分忘れられないでしょう。
それでも、私は反発したくなってしまうのです。
・・・善と悪、正気と狂気をここまでくっきりと対比して書き分けた世界に。
そして、悪(狂気)を際立たせることによっていっそう善が輝き勝る世界に。あまりに極端なんだもの。


この家族も・・いい家族なんです。夫婦の姿勢も理想なんだと思います。
でも、少し前に読んだロイス・ローリーの「ザ・ギバー」のできすぎの家族像が目に浮かんできたりして。
一生懸命だし、愛情は本物なんだけど、なんだかマニュアルっぽくて。かわいそうになってしまう。
もうちょっと肩の力を抜いてもいいのに・・・連れ合いに対しても、子どもに対しても。子どもも親に対して、ね。
もしかしたら、そう思うのが、あたり、でしょうか。
行き当たりばったりのジェニー一家の子育ては危なっかしいかもしれないけど少しほっとします。


それにしても。
ここにたどり着くまでに、なんとたくさんの恐怖を体験しなければならなかったんだろう。(読者としてのわたしが)
ここにくるまでにエネルギーをかなり吸い取られたような気がする。
途中でやめられないじゃありませんか、こういう本って。
ひたすら疲れました。