物語のガーデン―子どもの本の植物誌

物語のガーデン―子どもの本の植物誌物語のガーデン―子どもの本の植物誌
和田まさ子
てらいんく
★★★


植物でつなぐ子どもの本の読書案内。
子どもの本のなかにこんなにたくさんの植物が登場してそれぞれ名脇役としての役目を果たしていたのですね。
作者の、草花好き、子どもの本好き、との思いから生まれた本。
ここでとり上げられているほとんどが、わたしも大好きな本ばかり、というのもうれしくて、お茶でも飲みながら、筆者とともに(恐れ多くも!)本を囲んでおしゃべりをしているような気持ちになりました。
そして、本の中の今まで気がつかずに読み過ごしてきた植物たちをたずねて、もう一度あの本この本を読み直してみたい、と思ったのでした。

この本が、「秘密の花園」から始まるのも、頷けます。だって、たくさんの本の中に人知れずこんなにたくさんの植物が眠っていたのですから、子どもの本は、まさに「秘密の花園」だったのです。
今、その花園の門が開く。わたしたちをその庭園に招き入れる。

ノートンの「小人たちのあたらしい家」のごちそうをのせたお皿まで食べられるというそのお皿はキンレンカの葉。
「トムは真夜中の庭で」では、トムをあの庭園に導いたヒヤシンスの香り。

「グリーンノウの子どもたち」をとりあげるなら、植物の宝庫だろう、とあのお屋敷の広い庭をぐるりと思い浮かべましたが、あえて、広大な庭ではなくて手の中におさまるような「豆バラ」を。これは、トーリーがグリーンノウ夫人に贈ったもの。ドールハウスにまで収まるようなかわいいバラ。印象的な場面ですが、この豆バラに着目するなんて、筆者の物語と植物への深い愛情を感じます。

「エルマーの冒険」シリーズに出てくる、りゅうの子の大好物スカンクキャベツって、ザゼンソウのことだったのか。ほんとにあったってことだけでも驚き。空色高原に咲くキンギョソウの英名はスナップドラゴン(まあ、りゅう!)というのだって。気になりながら、あれこれ調べて知ったり、思いがけず知ったり、どちらも、わかったときには飛び上がるほどうれしいことでしょう。だれかと分かち合いたい、と思うでしょう。わけてくださってありがとう!

Ginn西の魔女が死んだ」には、ほんとうに沢山の植物が出てくるけれど、中でも印象的なギンリョウソウ。
これ、わたしも何年か前、草津に旅行に行ったとき、森の中で初めて出会ってんですよ。「ああ、これが、まいの花」と。美しい、というより妖しげで、少しこわい感じがしました。これが暗い中に一面に咲いている光景にもしであったら、それはもう忘れられないだろうと思いました。でも、わたしには、この花に手を伸ばして摘もうという気持ちにはなりませんでした。この花を摘んで帰ったまいの感性に一瞬戸惑いを感じたことを思い出しました。

この本で取り上げられている本たちは、ほんとうにおなじみの本ばかりで、少し懐かしい感じがします。それだけに未読の数冊がとても気になりました。いつか読んでみたい。
   R.E.ハリス 「グウェンの旅だち」(「ヒルクレストの娘たち」シリーズ)
   今村 葦子 「二つの家のちえ子」
   イ サンクム 「半分のふるさと」
   ミンフォン・ホー 「夜明けのうた」