プークが丘の妖精パック

プークが丘の妖精パック (光文社古典新訳文庫)プークが丘の妖精パック
ラドヤード・キプリング
金原瑞人三辺律子 訳
光文社古典新訳文庫
★★★★


二人の子どもダンとユーナが夏至祭の前の晩、<野外劇場>で、三頭の牛たちをお客さんに見立てて「真夏の夜の夢」を演じるところから物語は始まります。<野外劇場>は牧草地の用水路のそばの大きな古い<妖精の輪>の上。
そんな光景から始まるのです。
そこに妖精パックが現れて、もう<丘の住人>たちはいないから、君達にこの土地の「占有権」をあげるといいます。それはオールド・イングランドの所有者になること、なのだそうですが、それはどういうことかというと・・・
このときからたびたび、二人は、ここで、パックの導きで現れたいにしえの人々に出会い、彼らの冒険の物語を聞くのです。
これは魔法。魔法は、突然始まり、そして、物語の終わりが魔法の終わり。
オークとトネリコとサンザシの葉で、パックはこの場所での二人の記憶を消しておきます。つぎに会うときまで。


ウィーランドの剣、剣に刻まれたルーン文字の魔法、海賊と共に航海したふたりの騎士の冒険。
ぺベンシーの年寄りたち。
ローマ第三十軍団の百人隊長、ハドリアヌスの長城、翼のかぶと。
ディムチャーチの大脱出、隠された金。
命のはかなさ、運命のふしぎさ。
冒険の始まりにある詩、結びの詩。
予言と余韻とが後の世に開かれた道筋を語ります。


これは、英国の歴史への案内状であり、ガイドでもある。
妖精に道案内され、物語を楽しみながら、歴史を肌に触れることができる子どもたちは(大人たちも)幸せだと思う。
本当にあったのかなかったのかわからないくらい遥か彼方の物語の忘れ物が、後世思いがけない形で見つかったり、自分が確かに歴史の長い流れのなかの一部なのだと知るのです。
人が忘れ去ってもなお、消えることのない大きな流れの。