13歳の沈黙

13
13歳の沈黙
E.L.カニグズバーグ
小島希里 訳
岩波書店
★★★★

赤ちゃんのニコルが怪我をして意識不明になってしまった。
そして、その場にいた兄(母親ちがい)のブランウェル(13歳)はそのときを境に言葉がでなくなってしまった。
妹に怪我させた容疑をかけられたブランウェルは保護センターに収監されてしまいます。
言葉を話せない彼はこのままでは「犯人」にされてしまう。
彼の疑いを晴らすべく、親友コナーは、毎日保護センターに通います。
言葉の出ないブランウェルと、言葉以外の方法でコミュニケーションを取る方法を模索します。
コナーはブランウェルが犯人ではないことを確信しつつ、姉(母ちがい)のマーガレットの協力のもと、親友が言葉を取り戻すことと、真犯人をつきとめることを目的に動き始めるのです。

サスペンスです。
でも上に書いたあらすじはこのサスペンスの表の顔に過ぎません。
事件(?)の真相究明をたどっているうちに、この物語が二重の意味でサスペンスになっていることに気がついてくるのです。(いえ、ほんとうの主題はむしろ隠れているほうにあります。ニコルの事件はもしかしたらきっかけにすぎなかったといえるかもしれません)

少しずつ謎が解けていく過程〜コナーとマーガレットのコンビの巧みさ。
少しずつ回復していくニコル、
そして、ブランウェルとコナーのあいだにゆっくりとコミュニケーションの糸が結ばれはじめる。
コナー&マーガレットの真相究明の道筋と、コナー&ブランウェルの交流の道筋と、この二つが、場面の上で交差して、物語はスリリング、しかもすみずみまで緻密な筋立てで、まったく目が離せませんでした。

ブランウェルが言葉を失った原因はおもに二つ。
それは、じわりじわりと彼を蝕んできてゆっくりと言葉を失わせた原因。そして、一気に全ての言葉を奪った原因。
この二つがポイント。
うーん、どこまで書いていいの? 

心に残っているのは、「なにも話さないことは一番ひどい嘘である」という言葉。ああ、これはわかる。知っているのに言わないことは、言葉として口に出す嘘より、相手に与えるダメージは相当なものだと改めて思う。(ブランウェルの場合は少し違いますが)
また、ブランウェルが言葉を話せなくなる少し前に言った言葉。
  >もし、森の中で木が倒れたとして、それを聞いている人がだれもいないとしたら、
   その木は音を立てていると言えるんだろうか?

これは、コナーとブランウェルの物語だけれど、そこに寄り添うマーガレットの存在がすばらしい。(実はこれが「スカイラー通り19番地」のマーガレット・ローズの十数年後の姿だった。読み終えてから気がつく。さらにこの物語の舞台は「ティーパーティの謎」の舞台エピファニーです♪)
マーガレットは、大人としての節度からはかなりはみ出しているが、突き放したように公平で、隠し事のない性格が13歳に(とくにコナーに)対してとても誠実だと感じる。決して表に出すぎることはなく、常に後方支援を続けます。でもその存在感は大きいのです。心に残る場面も言葉もたくさんありました。彼女にとても惹かれました。
それから完全に脇役の脇役ですが、家政婦のヨランダがいいな。彼女が貸してくれたバス代について、コナーが彼女に抱いた気持ちとおなじ気持ちで、気に入っています。彼女の筋の通った姿勢がすてき。

そして、ラストシーンのすばらしさ。文句なしの感動でした。
この事件を追うことにより、ブランウェルだけでなく、コナーやマーガレットの傷が明るみにさらされ、その傷が快方に向かうことになるのが大きな喜びでした。

原題「Silent to the Bone」=「骨の髄まで黙りこくって」(訳者による)ですが、なんという言葉。このぞくっと冷たい沈黙。今の子どもたちは私たち大人たちに対してどんな言葉を飲み込んでいるのでしょう。自分が「愚か者」のザンボルスカ博士状態でないとよいのだけれど。