『錬金術』  マーガレット・マーヒー 

シンプルな表紙。思わず何の本?と聞きたくなってしまうような、落ち着いたブルーの無地の上に、黒っぽい緑色の文字で「錬金術」。

スピード感と緊張感に満ちた展開で、一気に読めてしまいました。先が気になり、ちょっと意味がわからないところなどがあったものの、「まあいいや」って感じて、どんど読んでしまいました。独特の雰囲気のサスペンス(かな)。おもしろかったです。

そもそもタイトルの「錬金術」は、何もないところから(あるいは価値の低いものから)金を作ること、という意味ではなくて、魔法、超能力のような不思議な力、の意味で使われています。
主人公ローランドが、本来持っている力に目覚める物語、といえるでしょうか。
この力を我が物にしようとする悪い人間の陰謀、
学校でも家でも期待されるままに(またそうしないではいられない境遇でもあった)優等生で生きてきた17歳の少年の葛藤や家族の事情。恋の芽生えなど・・・
魔法の力の目覚めを布の表面としながら、実は主人公が少年期を抜けて大人へと踏み出す、新生の物語になっていたように思います。
大人になるための通貨儀礼のようにともなう、思春期の苛立ちや不安、痛み、などが、まるごと「錬金術」という言葉に集約されているようでおもしろかった。
結構象徴的な描写が多かったように思います。そう思って読めば、よくわからないところも、わからないままに、「目覚める前って、もやもやしているもんだよな」と妙にわりきれたりして・・・。
優等生(仮面)のローランドも、科学少女ジェス(こちらも仮面を被ってる)もそれぞれ魅力的で好きでした。