『ロバになったトム 』 アン・ロレンス 

昔話のおもしろさや風情を感じさせる、まさに「お話、始まりはじまり」と言いたくなるような。「むかしむかあし」で始めたくなるような、そんなお話です。
舞台は中世のイギリス。
お百姓の三男坊のトムは兄弟中もっとも頭がいいものの、兄弟中もっとも傲慢な怠け者。百姓仕事なんか自分のやることじゃない、将来はロンドンに行って大金持ちになるんだ、と大法螺だけは一人前。

そんなトムに妖精が贈り物をくれた。
「(お前が)夜明けとともに始めた仕事は日が暮れるまで終わることがない。」さらに、「(お前は)将来の妻が望んだとおりのものになるでしょう」
おとうさんが言うには「妖精からの贈り物には注意したほうがいい。」

さて、旅に出たトムは、途中であった少女ジェニファーに「あんたって間抜けなロバね。」といわれて・・・ほほ、タイトルどおりのことになりましたざんす。

こういうお話ですから、昔話大好き!というモノにはうってつけ。すうっとお話のなかに入っていけます。
さらに、体裁は昔話ですが、現代的な物語にもなっています。
トムが途中で出会う少女ジェニファーがいいんです。独立心と知恵があり、元気で前向き。勇気もあります。
トムがもらったわけのわからない贈り物をうまく活用してずんずん前に進んでいくところは爽快です。
独立心のある女などとんでもない、という時代をロバのトムと協力してうまく切り抜けながら成功していくのが見もの。
さらに、そのジェニファーに引っ張られるようにして、トムの生来の弱さ(傲慢さや怠け癖)などが少しずつ消えて、すてきな青年にかわっていくところもおもしろい。

ジェニファーの周りにいた人たちがみんな、かなりの善人で、「ちょっとうまくいきすぎでは?」とちらっと思ったりしましたが・・・
最後のほう、もっと大変なことになるんじじゃないか、とハラハラしましたが、まあ、よかった、中くらいどころか大ハッピーエンドになってしまうところも、昔話仕立て、ということで納得です。
いつトムがロバから人間に戻れるかな、と思っていたら、あらまあ、そういうわけだったのー。

作者アン・ロレンスは、「五月の鷹」でデビューしたのち、昔話ベースに現代風スパイスを聞かせた物語を書き続けましたが、1999年、わずか44歳の若さで亡くなったそうです。
本当に残念です。