『イルカの家 』 ローズマリー・サトクリフ 

女の子が主人公のサトクリフの作品なんて珍しいな~と思って手にとった本です。

大航海時代のイギリス。
ロンドンの鎧師のおじの家(ここが「イルカの家」)に引取られた少女タムシンは、故郷を懐かしみ、航海への憧れを胸秘めたまま、なかなか家族に溶け込めない。
だけど、この家族すてきなんです。無口だけど、やさしいおじさん。
太陽のように温かく、実の子と分け隔てなくタムシンに愛情を注ぐおばさん。
そして、大勢のやんちゃないとこたち。
この家族のなかで、だんだんにタムシンは心を開いていきます。

さて、今まで読んだサトクリフから押して、ドラマチックな展開があるはず、と期待しつつ先を読むうちに、いつしか半分くらいまで読んでしまった。
そこで、はじめて気がつくのです。
この本は、決してドラマチックな物語ではない、そのぶん、少女の日々が丁寧に描かれている。日々の喜びと希望、小さな出来事の積み重ねのなかで成長していく少女、そして少年。温かい家族のまなざしのなかで。

なかでも心に残るのは唯一ともに夢を語り合えるいとこのピアズとの、留守宅のキッドの部屋での「航海」
ふたりの豊かなイマジネーションにどきどきする。
ちょっとエンデの「モモ」のなかの円形劇場での子供たちの遊びのシーンを思い出す。
なんて豊かな想像力。作者サトクリフもまたこんな少女時代を過ごしたのではないか、と想像してしまった。

また、手仕事をしながら、子供たちを自分のまわりに集めてお話をしてくれるおばさんが好き。お話のシーンがとても好きだ。
「家族」の平和であたたかな光景。

ラストでいきなりドラマチックになる。
ああ、これ、クリスマスの本だ、クリスマスの嬉しくて温かい奇跡の本だ、とおもう。
物語だからこそ語れるこの最高のハッピーエンドに心がぐーんと上昇していくようだ。
なんとさわやかなラストシーンだっただろう。
光のなかで大きく開いた赤いチューリップがすばらしい。この花がタムシンの将来を温かく照らし続けてくれますように。(きっとね♪)