『世界でいちばんすてきなところ』  アン・キャメロン

七歳のファンにおばあちゃんは靴磨きの道具を買ってくれた。お母さんが再婚して家を出ていったあとのことだ。
働くのは楽しかったし、たくさんのお金を稼いだ。
稼いだお金をおばあちゃんに渡すと、そのなかのいくらかをおばあちゃんはファンにくれた。
でも、同じくらいの子どもたちがファンの前を通って学校へ通うのを見るとき、ファンは取り残されたように寂しくなるのだった。
おばあちゃんは何故学校へ行きなさいと言わないのだろう。
ぼくがかわいくないのだろうか。僕のお金の方が大事なんだろうか…こわくてなかなか聞き出せないファン。
靴磨きのお客に町の看板の読み方を聞き、いらなくなった新聞をもらい、ファンは字を覚えた。そして・・・

グアテマラ識字率は大人でも60パーセントぐらい、学校に行っていない子どもたちがたくさんいるそうです。
ファンのような子は決して少なくないのかも知れません。
でも、ここで、かわいそう、というのは違うのではないか、上から下をすくい上げるような手の差し伸べ方をするのは何か違うのではないか。
一度も学校へ行ッたこともなく字も読めないおばあちゃんの颯爽と逞しくしなやかなこと。そしてすごく大きな知恵を感じます。
おばあちゃんがファンに言うことば。
「じぶんの道は、じぶんできりひらかなくちゃ。おもいどおりになるかならないかは、もんだいじゃないんだよ。たいせつなことは、ほんとうにやりたいことを、あきらめずにつづけるってことさ。そうさ、なくてもすむような、あついお湯や電気なんかのことじゃない。もっとだいじなもののことをいっているんだよ。」

「世界でいちばんすてきなところ」
ファンがいつも靴磨きの店を出す観光案内所の壁に貼ってあるポスターに書いてある言葉です。
古代マヤの時代からの歴史があるグアテマラ。景色の美しいアティトン湖のほとりの町サンパブロ。
「なんてかいてあるんだい」と聞くおばあちゃんに、ポスターの文字を読んであげたファンが今度は聞きます。
「サンパブロはほんとうに世界でいちばんすてきなところなのかなあ。」
おばあちゃんが答えます。
「どこでも、世界でいちばんすてきなところになるんだよ。
 そう、どこでもさ。じぶんのあたまをしゃんとあげて、むねをはっていきていられるところならばね。どこでも、じぶんにほこりをもっていきていけるところならさ。」

あついお湯や電気のあるくらしを当たり前のように享受しているわたしたちが、ここで胸を張って、自分の立っているところを「世界でいちばんすてきなところ」といえるでしょうか。
こんな風に胸を張っていえるおばあちゃんとファンがまぶしくみえました。