『長い長いお医者さんの話』  カレル・チャペック

チェコのお話です。
妖精、小人、河童や魔法使いが、お医者さんやおまわりさんにまじって飄々と活躍(?)する、一寸ナンセンスでのんびりした童話、9編。

☆ 青子さんと露さんの読書日記を拝見して、この本を手にとりました。ありがとうございました。

実は再読です。
ずーっと前に一度読んでいるのですが、内容をまったく覚えていません。現在読み返してみても、まったく思い出せない・・・どこかで聞いたことがあるような無いような。 たぶんこの平和な雰囲気のせいかもしれない。
・・・その中で、唯一、「思い出した!」と、膝をたたいたのが、「郵便屋さんの話」でした。
夜中に、小人たちがトランプをする。カードは明日の朝配達される予定の手紙の束なのですが、手触りで、内容がわかるというのです。温度がちがうのですって。愛がこもっているほど、その手紙は温かい。(一番強いカードはとても温かい)
郵便屋さんの姿をした小人たちが、丸くなって、手紙の肌触りを確かめながらゲームしている姿が、ぽあんと浮かび上がってきました。
宛名のない手紙の受取人を1年と1日探し回る郵便屋さんには、古き良き時代の下町的暖かさを感じます。

面白かったのは、表題の「長い長いお医者さんの話」の中で、あるお医者さんが語るリューマチになった河童の話。
「しめりっけを遠ざけるのがたいせつだからね。あたたかくしていなけりゃいけないんだからな」というお医者さんに、「ですが」と河童は言う。河童にはできない相談です、と。
・・・で、結局、この河童は温泉ガッパになり、今も、元気にしているらしい。

「長い長いおまわりさんの話」に出てくる七つの頭を持った怪物は、挿絵(作者の兄ヨセフ・チャペックに因る)がいいです。七つの頭が、七つとも、まるで下町の商店街の旦那組合みたいなの。はははっ。(わたしとしては、この本の中の一連の挿絵の最高傑作ではないかと思うのですが。)

「宿無しルンペンくんの話」にでてくる「風に飛ばされた帽子」も、いいキャラクターですよね。
橋を渡って国境越えて逃げる逃げる。ロシヤの平原で馬に乗り、ダッタン人を指揮して、逃げる逃げる。
え?もちろん帽子の話です。

「王女さまと子猫の話」で、世界一周旅行する探偵が日本のナガサキに寄航した際のナガサキの描写も可笑しくて楽しかった。 「あたりの木立はみんな美しいウルシぬりだ。岸辺の砂は一粒一粒洗い立てたように美しい。」

言うなれば、法螺話。ここまで言いたい放題しながら、どたばたした印象がなく、平和でのんびりとして、しかもほんわかとしていられるって、得がたいお話だと思いました。気品を感じます。