『死との約束』 アガサ・クリスティー

 

「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」
エルサレムのホテルでポアロがふっと漏れ聞いた言葉は、小説家のものでも戯曲家のものでもなかった。


「彼女」ボイントン老夫人に本当に死が訪れるまでには、相当のページ数を要するが、その間、登場人物の紹介とともに、これでもかってくらいに彼女の化け物じみた残酷さが描き出される。彼女の子どもたちは、成人しても彼女の囚人で奴隷だった。逃げ出す気力までも奪われて。


エルサレムからペトラ遺跡へ。
砂漠、洞窟、岩山……。オリエントの独特の風景が広がる。
この渇いた空気のなかで、何が起きたとしても、不安より恐ろしさより、むしろ神秘的だと感じている。これも一種の旅情だろうか。


彼女は殺されたのだろうか? 
ポアロは事件を24時間以内に解決すると約束して、そのとおりにした。
犯人を(知っていても知らなくても)庇おうとする家族。余計なお世話はやめて、そっとしておいてほしい家族。
読んでいると家族の気持ちに寄り添いたくなる。
だれが犯人だったとしても、犯罪を暴けば、不快な結末が待ってるだけだと思って……


辿り着いたのは意外な真相。こちらの予想をばっさりと裏切ってくれた。
後味は、おかげさまで悪くはなかったけれど、なんだか置いてきぼりにされたような気持ちだ。ちょっと作者がうらめしい。