『愛の探偵たち』 アガサ・クリスティー

 

短編集である。
まずは、中編『三匹の盲目のネズミ』。これはちょっと前に読んだ戯曲『ねずみとり』の小説版だ。
最近、戯曲を読んだばかりで、事の展開も、犯人は誰かということも、良くよく覚えている。ゲストハウス(の居間)という、一場の舞台は、あまり変わらない。
戯曲で読んだときには、一場の舞台が、舞台の袖や奥にちゃんと繋がっていること、舞台の外にも世界があるのだということを想像させられ、広々と感じたものだったが、舞台に制約のない小説ではむしろ、雪に閉じ込められた密室状態を強く意識して、いっそう閉塞感を感じた。
戯曲では、ゲストハウスの宿泊客は5人。こちら小説版は4人。小説版で、消された一人の事が気になる。この世界のどこかで、起こった出来事も知らずに暮らしているのだろうか。明日の新聞で初めて事件を知るのだろうか。


後の短編は、ミス・マープルものが4編。ポアロものが2編。
それから最後に、表題作『愛の探偵たち』が、ハーリ・クイン氏ものだ。これまで読んだクイン氏ものは、幻想的で不思議な雰囲気が印象的だったが、今回、幻想味はずいぶんと薄れていて、クイン氏は、しっかり探偵をしている。
サタースウェイト氏(クイン氏の相棒、というよりも、クインとこの世との中継役?)がクイン氏にいう「きみの興味の対象は――恋人たちなんじゃないか」という言葉に導かれて、殺人事件をめぐる「恋人たち」の動向を追いかけて読む。
しかし、すっかり作者の術に嵌ったようで、まんまと一杯食わされました。


最初の『3匹の盲目のねずみ』と最後の『愛の探偵たち』がよかった。どちらも、殺人事件は起こるが、愛し合う人たちの真心がほほえましくて、『愛の探偵たち』という表題をもう一度見直している。