『ゴハおじさんのゆかいなおはなし エジプトの民話』  デニス・ジョンソン‐デイヴィーズ

 

むかしむかし。エジプトに、ゴハというおじさんがいました。
市場で買い物をしたゴハおじさんは、肩に重たいかごをかつぎ、そのままロバにまたがって家に向かいました。
途中で、友だちに呼び止められます。
「なんで、あんたがかごをかついでるんだい? せっかくロバにのってるんだ。にもつはロバのせなかにおけば、らくだろうに」
さて、ゴハおじさんはなんて答えただろう。


それこそ、彦一とんち話のような日本の民話を思い出す。ナンセンスでユーモアたっぷりのお話が、十五も並んでいる。
強盗やどろぼうにあったゴハおじさんは、その都度、どうやって相手を出し抜いたか。
奥さんとゴハおじさんのだんまりくらべは、どんなあんばいで決着がついたのか。
ゴハおじさんはどうやってロバやガチョウの数を数えるのか。
世間体ばかり気にする息子に、ゴハおじさんはどのように世の中を教えたのか。
ゴハおじさんが買おうとした新しいロバはどんなロバだったのか。
……どれも、ほのぼのと笑えるたのしいお話ばかり。


あるとき、「どんなむずかしい質問にも答えられる、かしこい人がいますかな?」と旅の三賢者に聞かれた領主さまは、ゴハ伯父さんを呼びだします。ゴハおじさんこそ、難しい質問に賢く答える、と評判だったから。
三人の賢者とゴハおじさんのやりとりの楽しいこと。最後に三賢者は不思議そうにゴハおじさんに聞きます。
「だれにも答えられないようなしつもんに、どうして、これほどかしこく答えられるのでしょう?」
ゴハおじさんの答えの素敵なこと。賢さってほんとうはどういうことなのか、まじめに考えてしまった。


ハグ・ハムディさんとハニーさんによる、豊富な挿絵は、すべて、さまざまな布を縫い合わせて作ったという、エジプトの伝統工芸。
もともと、結婚式や葬式、宗教的な祝日に使われる大きな天幕に施される細かい幾何学模様などのための工芸だったそうだ。
ひょうきんなゴハおじさんやまわりの人々の表情、のびのびとした動物たちの姿が、布と糸で細かく縫われている。どんな技法なのだろうな。実物を見られたらいいのに、と思う。