『和ろうそくは、つなぐ』 大西暢夫

 

 

「和ろうそくの炎は、踊っている。
 ときどき、ポッと炎が飛び出してくる。
 和ろうそくは、昔から続く技術で、
 職人が一本一本手作りしているものだ。
 ふだん見ている西洋ろうそくの炎とは、種類がちがう灯りのようで、
 燃えつきるまで、その変化を見ていたくなる」


まず、和ろうそく職人、松井さんの工房の様子が写真と文章とで語られる。
鉛筆の先のようにかわいらしい灯芯は、和紙と綿で作られている。何度も塗りこまれる蝋は、樹の年輪のようだ。(バウムクーヘンみたい)
この本は、和ろうそくについての話かと思っていたら、これは始まりだった。
「蝋って、ハゼの木の実をしぼったものなんだよ」
という松井さんの言葉に、著者・大西暢夫さんは興味を持ち、ハゼの実を収穫する「ちぎりこさん」島田さんの仕事を見に行く。さらにそこから……。


タイトルの『和ろうそくは、つなぐ』の「つなぐ」の意味がやっとわかってきた。
まず、蝋から、それから灯芯の和紙から、著者は次々に「つながり」を追いかけていく。
ふっと、「つみあげうた」(文章に後から文をどんどんと継ぎ足していく言葉遊び。マザーグースの『これはジャックの建てた家』など)みたいだ、と思った。


これは和ろうそく。
これは和ろうそくになる蝋。
これは和ろうそくになる蝋になるハゼの実。
これは和ろうそくになる蝋になるハゼの実をしぼったカス。
これは和ろうそくになる蝋になるハゼの実をしぼったカスを使った藍染め。
これは和ろうそくになる蝋になるハゼの実をしぼったカスを使った藍染めから出た灰を使った小鹿田焼き(陶芸)。
……と、こんな歌ができそうな展開である。
この「つみあげ歌」には大きな意味がある。
和ろうそく職人の松井さんは、
「ここで捨てられるものはひとつもないんです。」
という。


「ひとつの役割を終えたものが、つぎの職人の手によって、また生き返る」
それぞれ全く分野が違う伝統工芸の職人から職人へ、どんどんつながっている。
木や川や土、自然の恩恵を無駄にせず、最後に土に還るまで、大切に循環させていること。
これもまた、大切な伝統なのだろう。伝統工芸の、私たちには見えない地味な場所で地味に続いている大きな伝統。
自然の恩恵を大切にする知恵の循環が、脈々と続いていること、そのまっとうさが、居住まいただしたくなるくらい清々しい。