『ゾウと旅した戦争の冬』 マイケル・モーパーゴ

ゾウと旅した戦争の冬

ゾウと旅した戦争の冬


「庭にゾウがいた」という言葉から、老女リジーの昔話は始まります。
第二次大戦末期、徴兵された父の帰りを待つ少女リジーたち家族のすむドレスデンが連合軍により空襲をうけます。
動物園で母親に死に別れた子ゾウをわが子のように面倒をみてきたのが、リジーの母親でした。
家族は、着の身着のまま町を逃れます。ゾウの子を連れて。
ドイツに愛国心を持ちながら(持っているからこそ)戦争に反対してきたリジーの母。
しかし、空襲によって自分の大切なものを何もかも失ったあとで、敵兵を目にしたときでも、その気持ちを変えずにいられるだろうか。


ジーたち家族は、戦火を逃れる旅の道々、さまざまな試練に出あいます。家族は協力し合い乗り越え、旅を続けるのです。
その家族の構成員ときたら・・・
親子三人、子どものゾウ、そして、敵兵。
この奇妙なごたまぜ家族を通して、見えてくるものがあります。
災難をもたらすのは、敵でも味方でもない、ということ。敵は「戦争」そのもの。戦争を望む人間たちの創造力の無さなのだ、ということです。
一番小さな者たち(「戦争」に対して何の責任もないばかりか、その一番の犠牲者)の無邪気な、人への信頼が、大人を支え続けたこと、
そして、彼らの存在が大人を(時に頑なにもしたものの)自分を取り戻させ、しっかりと向くべき方向を向かせてくれたことなどを思います。
戦争の物語であり、家族の物語でもありました。
家族が、このような旅をしなければならない事態には決してしてはいけないと思います。
こんな状況の下で、互いに守り守られながら家族の絆を実感することは、あまりに酷いことです。