ぐるぐる猿と歌う鳥

ぐるぐる猿と歌う鳥 (ミステリーランド)ぐるぐる猿と歌う鳥 (ミステリーランド)
加納朋子
講談社


山の斜面いっぱいに戸建て社宅のそっくり同じ瓦屋根が一面敷き詰められたように続く。
社宅のあちこちからぱらぱらと子どもが出てくる。放課後の街路を子どもたちが走り抜けていく。
子どもたちが元気なこの町、でもほんとは、あちこちに秘密や謎が隠されている。
思い出すだけでぞっとするような謎、なんとなく口に出せない秘密。子どもなりの痛みを心にしまって。
わくわくするような秘密や謎。みんなで共有する秘密もある。


秘密を共有することで、はみ出し者・一匹オオカミの森(しん)くんが変わっていくことが柱になっているけれど、
なんといっても、この独特の空気がたまりません。


いいなあ、この空気。
懐かしいような、ほっとするような風景です。子どものいる独特の風景。そして、あちらこちらから秘密のにおい。
今、わたしの住む町にだって、たくさん子どもがいるはず。
夏休みの夕暮れ時だというのに、その声さえ聞こえないのがさびしいと思っていたけれど・・・
待てよ、と思う。
子どもたちはいるんだ。大人には見えない彼らだけの秘密をもって、彼らだけの独特のコミュニティができているにちがいない。
大人の余計な心配なんかはねのけて、もしかしたら、どこかですてきな夏休み共同体がいるにちがいない。


正直、設定がぶっとんでいるように思えて、大人としては、この小さな共犯者たちのその後がすっごく心配だったりします。
でも、そう思いながら、続きなんか知りたくないなあ、とも思ってしまう。
だって、これは、このままで完璧な素晴らしい絵だから。
おとぎ話みたいだけど、子どもたちのひたむきさも、支えあう気持ちも、みんなみんな素敵だから。
・・・そして、ほんとは知っている。
この風景がいつまでもいつまでも続いていくはずがないこと。
つかのまの時を、大切にしておきたい。
この一瞬が、彼らにとって、永遠につながる、ほんとに大切な大きな一瞬だと思うから。


夜の空気をふるわせて、ほら、口笛が聞こえる。