『冬かぞえ』 バリー・ロペス

 

冬かぞえ

冬かぞえ

 

 

収録された九つの短編には、物語らしい物語があるわけではない。差しだされたのは、荒野だ。寒々とした荒野の支配者は動物たち。それをそっくりそのまま受け入れているのがインディアンで、数々の伝説が生まれている。
荒野が似合う人もいる。荒野に住み、荒野の一部になってしまう人は、独特の魅力をまとっていて、ある人たちを惹きつけずにはおかないのだろう。


辺境の館で、ただ一人、遺された私家本の修復をする確かな腕(過度な装飾を嫌う)をもつルリユールは、偏屈で近づきがたいイメージだ。だけど、彼の仕事ぶりと、読みこまれた本とが醸しだす独特の世界に、語り手は惹きつけられる。


あるいは、荒野に一人慎ましく住む男。かなり胡散臭いし、正気を失っているのではないかと思う。だけど、語り手は「あの男の人生への態度は、確かな間違いのないものとして心に残っていた」と思っている。


その人の(他人を寄せつけまいとする)バリアーを破ってまでも、引き寄せられるように近づいていく語り手は、何かの試しに合格を与えられたのかもしれない。
その人と語り手とは不思議な体験を共有する。
それは、誰もがみている自然な現象が、見る目を持った人にだけ意味があるような、そんな感じだろうか。
心に残るのは、巻き起こった竜巻に巻き上げられた小石が、銀河を形作る様子。


「大通りの端に植えられたイチョウ若木の、あまりに規則正しい並び方に、これはまるで奴隷のようだと……」
「人を酔わせるような風だった。馬の群れが突然方向を変えたのを、耳もとにそよぐ風に感じとるような、野生の優雅さがあった」
「(一面に敷き詰められた小さな貝殻と砂の上に仰向けに転がると)微かなざわめきが聞こえたが、それは深い森に閉ざされた滝の響きのようだった」
……こんな言葉を拾いながら、風景を眺めるように読んだ。自分もだんだんと風景の一部、荒野の一部になっていくような気持ちで。