『Soul Lanterns』 Shaw Kuzki

 

Soul Lanterns

Soul Lanterns

  • 作者:Kuzki, Shaw
  • 発売日: 2021/03/16
  • メディア: ハードカバー
 

 ★

何度も読み返してきた『光のうつしえ』(朽木祥)の英語版がこのほどアメリカで刊行された。
この日を待っていた。
(翻訳はEmily Baristrieriさん。過去に、角野栄子さんの『魔女の宅急便』も英訳されていると紹介されている。)


作者あとがき(日本語原書『光のうつしえ』にはなかった)"A Note from the Author"が付されていることも、嬉しい。
"A woman staring at children……"
"A man chasing down someone……"
作品本文のほか(続き?)にまだまだある、もうひとつの、小さな『光のうつしえ』のようなエッセイだった。


物語は、戦後26年目の広島の中学生が、文化祭の美術部の「あのころの廣島ヒロシマ」の展示に合わせて、身近な人の体験を聞き、それぞれの作品に仕上げていく。重たい物語の連続でありながら、同時に温かく、このうえなく美しい物語だ。
この物語を英語で読むことを楽しみにしていた。日本語原書を手許に置き、参考にしながら読んだ。


the altar room=仏間
the old age sistem=数え年
こんなふうにいうのね。


"Nozomi had Mr.Yoshioka for her elective art class……"
「希未は(美術部でも)選択科目の美術でも吉岡先生の指導を受けることになった」のところだけれど、英語では、生徒が先生を"have"するのだ、ということがおもしろかった。日本語(先生が生徒を「受け持つ」)と逆で。


この本にはいくつかの忘れられない短歌が掲載されている。それがどんなふうに英訳されているのか、と気になっていた。
異なった言葉なのに決まった同じルールに乗っ取って、同じ情景、おなじ思いを歌うって、可能なのだろうか。とっても難しいんじゃないだろうか。実は、ちょっと心配していたのだけれど。
これが英語の短歌なのか。
5-7-5-7-7のシラブルをなんとなく意識しながら声に出してゆっくり読むと、リズムが心地いい。
日本語の短歌に籠められた思いを、英語で読んでいる。英語の、やっぱり小山ひとみさんの歌だった。


こんな風に最初のうちは、『光のうつしえ』と『Soul Lanterns』の文面を見比べるようにして読んでいたのだけれど、あとのほうはもう夢中。わからない単語も表現もたくさんあるはずなのだが、(日本語原書を何度も読んでいたこと、直前にも読んでいたこともあって)英語の文章を読んでいることを忘れていた。


”There are probably more mothers like Mrs.Koyama and me in this world than we can count,no distinguishing between enemies and allies;I'm sure that in America,in China,Korea,and Europe,there are mothers living their days the same way as me,breath by breath."
「きっとこの世の中には、私や小山さんのような母親が数えきれないくらいいて、それはたぶん、敵だの味方だのの区別はなくて、アメリカでも韓国でも欧州でも、私と同じように毎日毎日を息を継ぐようにして暮らしている母親があるに違いない」


この物語が英語で読めるってそういうことなんだと思う。
海を越えた遠い国で、日本語ではない言葉で、いまきっと、この物語を読んでいる人がいるのだ。
それこそ加害者も被害者もない。ただ、物語の中の一人一人の物語に、のめりこみ、共感したいと望み、寄り添いたいと望みながら、この本を読んでいる。
私も一緒です、と声をあげたい。
言葉も暮らし方も違う人と、一冊の本から受ける感動を、今、きっと分かち合っている。