3月の読書

3月の読書メーター
読んだ本の数:18
読んだページ数:4914

ダーウィンの「種の起源」: はじめての進化論ダーウィンの「種の起源」: はじめての進化論感想
とても美しい絵本。絵も色も、そして文章も。読んでいると自分が、先祖たちからの奇跡のバトンを引き継いできた、奇跡の存在に思える。遠い過去から無数に枝分かれした細い道の最良の一筋を選んで進んできた、かけがえのないひとり。その道筋は、大きな叙事詩のようだ。
読了日:03月31日 著者:サビーナ ラデヴァ
終りなき夜に生れつく (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)終りなき夜に生れつく (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
読む前に事件のあらましや犯人まで知っていたとしても、物語の全体が見えているとはとても言えなくて読書を楽しむための障害にはなり得ないと思う。物語にたちまち引き込まれて夢中になってしまった。回想形式の文章に籠る哀愁、不思議な伝説、神秘的な雰囲気を称えた人物。何よりも、ジプシーが丘の家の佇まいが素晴らしい。
読了日:03月29日 著者:アガサ・クリスティー
いかさま師ノリス (エクス・リブリス・クラシックス)いかさま師ノリス (エクス・リブリス・クラシックス)感想
ワイマール文化咲き誇るベルリン。ひっそりと台頭してくるナチス。強い力に押されてみんな揃って暗いひとつの方向に向かってずるずると進んでいく時代に、ひとり横歩きしているノリスは、不気味で滑稽だ。図々しくて、したたかだ。だけど、奇妙に輝いている。そんなはずはないのに、一瞬、それが何かの希望であるかのように思えた。
読了日:03月27日 著者:クリストファー・イシャウッド
しあわせなときの地図しあわせなときの地図感想
何のこともない日々が、寸断されることなくこれからも続いていくと思えることは幸せだったのだ。最後に印をつけた町の地図からの思いがけない発見。まるで町が、ソエに、ありがとう、と言ったように感じた。しるしのついた地図は、ソエを(そして町を)力づけ、守ってくれる小さな灯のように思える。
読了日:03月25日 著者:フラン ヌニョ
炉辺の風おと炉辺の風おと感想
静かに火をみつめることは梨木香歩さんの「滞り」に似ていると思う。滞ることは悪いことではない。あちらとこちらが混ざりあう場所でもある。八ヶ岳の山荘は「滞り」そのもののよう。形ある「滞り」)「ついでに自分の心にも、ミズナラを一本、育てたい。考えが暴走するのを食い止め、やがて澄んだ水の一滴を生み出すような」
読了日:03月23日 著者:梨木 香歩
動物園の獣医さん (岩波新書)動物園の獣医さん (岩波新書)感想
心に残るのは動物園での死に関して。「動物の死に数多く直面しそれを見つめてきた私たちにとっても、死は決して慣れてしまうような性質のものではありません」 救うことのできない重い病気をかかえた動物について書かれた言葉も心に残っている。人には到底及ばないような知恵が動物たちには備わっているのではないかと思う言葉など。
読了日:03月21日 著者:川崎 泉
スリーピング・マーダー (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)スリーピング・マーダー (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
ずっと時間が着々と流れているのを感じながらここまで読んできたので、シリーズ最後に、ふいに過去に戻った感じだ。この物語のテーマが「回想の殺人」であるように、この物語そのものが(シリーズの)回想のようだった。ミス・マープル、いついつまでも、このまま元気で暮らしていて欲しい、と思う。
読了日:03月20日 著者:アガサ・クリスティー
復讐の女神 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)復讐の女神 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
カリブ海の秘密』の後日談で、懐かしい登場人物のその後の消息を知れたのは嬉しい。ことにもっともっと知りたかったあの人のことを今、いろいろな角度から知ることがてきたのはうれしかった。やはりただ者てはないのだ。亡き後のあれこれの仕掛け。どんな思いでこんなにも周到に準備したことかと。もう会えないのは寂しいことだ。
読了日:03月18日 著者:アガサ クリスティー
保健室のアン・ウニョン先生 (チョン・セランの本 1)保健室のアン・ウニョン先生 (チョン・セランの本 1)感想
M高校に限らず、大勢が集まる場所なら、少し変な「気」がこごった場所ができても不思議じゃない気がする。逆に正のエネルギーもまたどんどん湧いてくる場所であるかもしれないのだ、学校は。「後からくるものたちはいつだって、ずっと賢いんだ」良い言葉だ。そして、ヒーローが悲壮な使命感を一人で抱え込む必要もないんだ。
読了日:03月16日 著者:チョン・セラン
十五匹の犬 (はじめて出逢う世界のおはなし カナダ編)十五匹の犬 (はじめて出逢う世界のおはなし カナダ編)感想
犬共同体の厳格な上下関係など、むしろ人間の社会そのもののように思えて、もしや、私たち人間、いつのまにかオリンポスの神々の悪戯で、犬の知性を与えられていたかと思ったくらい。犬たちは一生を終えた時、幸せな死を迎えることができたのか。幸・不幸に「知性」はどんなふうに関わるのか。幸せってどういうものなのだろうか。
読了日:03月14日 著者:アンドレ アレクシス
バートラム・ホテルにて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)バートラム・ホテルにて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
私はこの本の雰囲気が大好きだ。ミステリでもミステリじゃなくても。凝り過ぎたホテルは芝居がかっていて、素敵というより、そこはかとなくいかがわしさも感じて落ち着かない。この落ち着かなさにぞくぞくする。よくできたテーマパークだろうか。いいや、むしろ不思議なカーニバルに迷い混んだ。奇妙で非日常な気分を存分に味わった。
読了日:03月12日 著者:アガサ・クリスティー
童話作家のおかしな毎日童話作家のおかしな毎日感想
くすくす笑いながら読んだこの本には、「右手の肖像」「家族の戦争」「あとがきにかえて」など、戦争によって失われた人たちの影が見え隠れしている。遺された人たちが懸命になって生きてきた道筋も。だから、この今、笑って過ごす日々を手放さないことは、きっと亡くなった人たちの供養でもあると思うのだ。
読了日:03月10日 著者:富安 陽子
ふたつの海のあいだで (新潮クレスト・ブックス)ふたつの海のあいだで (新潮クレスト・ブックス)感想
「ふたつの海」が多重的に浮かび上がってくる。いくつもの「ふたつの海」が「いちじくの館」という一点に合わさっていくのを不思議な気持ちで味わう。読み終えて思い出すのは多くの鮮やかな風景。その風景の中に喜んで溶け込んで生きようとする小さな人びとの姿。人の思いが風景のなかに溶けこんで風景が人そのものになる。
読了日:03月09日 著者:カルミネ アバーテ
ふたりっ子バンザイ―石亀泰郎写真集ふたりっ子バンザイ―石亀泰郎写真集感想
しょっちゅう喧嘩するから、「そんなに喧嘩ばっかりするなら少し離れていなさいよ」というのに、不思議に一緒の空間にいたがった。肌をひしっとつけあうほどに。離れたらどうかなっちゃう、どうか離さないで、といわんばかりに。それは、いつかどこかにいた小さなきょうだいのことだけれど、本のページを繰っていると、思い出す。
読了日:03月07日 著者:石亀 泰郎
炎の中の図書館 110万冊を焼いた大火炎の中の図書館 110万冊を焼いた大火感想
火災によって失ったものは膨大だった。それでも、(とっても乱暴な言い方だけれど)火は図書館を焼き尽くすことは到底できないのではないか、と思えてくる。図書館を育て守り、その灯を決して消さない、という人々の強い思いが、図書館という大きな箱の正体かもしれない。図書館は、ただの箱ではない。
読了日:03月06日 著者:スーザン・オーリアン
イングランド田園讃歌イングランド田園讃歌感想
魔法の林檎の木、近所の人たち、作物や家畜、森からやってくるお客、移り変わっていく自然や、季節ごとの行事、家族のこと、収穫と料理……どのページを開いても、ちょっとそこの隣村という感じで、バーリー村、ムーンコテージを訪れることができる。こんな感じの隠れ家的な本が一冊、手許にあるっていいものだ、と思う。
読了日:03月04日 著者:スーザン ヒル
カリブ海の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)カリブ海の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
初対面の印象ってあてにならない。あの人とはもう二度と会うことはないのだろうと思うと、共有できたわずかな時間がことのほか名残惜しくなる。巻末の解説(穂井田直美)で「クリスティーは、ミス・マープルを通して、老いを迎えた女性について、ひとつの生き方を描こうとしたのではないか」と書かれていて、なるほど、と思う。
読了日:03月03日 著者:アガサ クリスティー
イトウの恋 (講談社文庫)イトウの恋 (講談社文庫)感想
手記のなかのイトウの恋、現在の久保とシゲルが徐々に惹かれていく様子がリンクしているようでおもしろい。イトウと田中シゲル、手記のなかと外の二人の母への思いも、どこか繋がっている。「この人がつまんない女を好きになんなかったのがうれしいってことなの」彼女の「うれしい」という言葉がうれしい。
読了日:03月01日 著者:中島 京子

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