『終わりなき夜に生まれつく』 アガサ・クリスティー

 

 

土地を奪われたジプシーたちに呪われているという「ジプシーが丘」は、その禍々しい言い伝えまでも含めて、美しく、そそられる土地だった。
ここに自分の家を建てよう、愛する人と一緒に住もう。それが、語り手でもあるマイクの願いだったが、この土地が競売にかけられたその日、この土地で出会ったのがエリーだった。
一目で恋に落ちた二人は、やがて結婚するが、実は、この結婚には、大きな障害があった。エリーは、アメリカの大富豪の唯一の相続人で、彼女はとんでもない大金持ちだったのだ。それに引き換えて、マイクは、これまで五回も職を変わり、今も失業中だったのだから。


この本は、中学生の頃に読んでいる。覚えているつもりだったが、読み返してみて、私が忘れていなかったのは、「その事件」と「その犯人」たけだった。
そして、それは、知っていたとしても、物語の全体が見えているとはとても言えなくて、改めて読書を楽しむための障害にはなり得ない、ということがわかった。
私は、物語にたちまち引き込まれて、夢中になってしまった。
回想形式の文章に籠る哀愁のようなもの、不思議な伝説、ちょっと神秘的な雰囲気を称えた人物。
何よりも、若い二人を守って腕を広げたようなジプシーが丘の家の佇まいが、すばらしいのだ。


それから、人物。ことに、エリーに惹き付けられる。
「まるで、まゆの中に、お金と因襲的な考えで閉じ込めて」育てられたようなエリーは、やさしくてかわいい人で、守られるべき存在と思われる。だけど、驚かされるのは彼女の本当の素晴らしさだ。彼女が持っている、しんの強さ。


読みながら、おや、と思う。
もしかしたら、作者は、犯人が誰なのか、隠すつもりはなかったのかな、と思う。
わりと早くに見えてくるものがあるのだ。そして、それだからといって、物語のおもしろさが削がれることがない、という不思議さ。(ページを操る手はどんどん早まる)
ミステリといったら、探偵が犯人を見つけ出す物語と思うが、犯人はなんとなくわかった。だけど、探偵はどこにいるのか? 確かに探偵はいるのだが……