『さくら村は大さわぎ』 朽木祥

 

さくら村は大さわぎ

さくら村は大さわぎ

  • 作者:朽木 祥
  • 発売日: 2021/02/18
  • メディア: 単行本
 

 

さくら村では、子どもが生まれたら、さくらの苗木を一本、植えるやくそくがあるのだ。
たから、村は、さくらでいっぱいだ。
「雨かざり山のてっぺんから見ると、さくら村と風色の森と風色湾は、半分のお月さまのかたちに、すっぽりおさまっています」という、さくら村の地図が、本の始めに載っている。これから始まる物語の案内所みたいに。
登場する子どもたちや大人たちが住む家も、遊ぶ場所も、学校も、これを見ればちゃんとわかる。


ヘルメットの中の小鳥の巣。みんなで出掛けたほたる狩りで起きたこと。楽しみに待っている満月の秘密。寝込んだカワセミじいちゃんへの最高のお見舞い。トウモロコシ畑の鶏の声。焼きたてのパンの匂い。
それから、それから……
次々に起こる素晴らしいことに、ほーっとため息をついて、こんな村で暮らせたらどんなにいいだろ、と思う。
でも、その気になれば、自分のいる場所だって、別のさくら村になる。
気をつけて見回せば、日々のなんだもないあれこれのなかには、たくさんの驚きや喜びが隠れている。
毎日通る道、であう人、身の回りのちょっとしたことのなかに潜む笑いの種の探し方を、さくら村のハナちゃんが話してくれる。


この本のなかで、子どもたちも大人たちも、よく待っている。期待に胸をふくらませて、何かが始まる時を待っている。
物語のおしまいは、うれしい期待が膨れ上がる長い待ちだし。
そしてね、気がつくのだ。ああ、わたしたちも、今、大きな待ちの時にいるのだ、と。
帯には「今こそ読みたい!」という言葉。
待つ時間が、さくら村のみんなと一緒なら、とてもうれしい。