1月の読書

1月の読書メーター
読んだ本の数:22
読んだページ数:5730

蜜のように甘く蜜のように甘く感想
選んだこと、選ばなかった事。喪失と獲得。幸せと不幸せ。成功と不成功。反対言葉のようなどちらも、本当はそんなに変わらないのかもしれない、と思い始める。大切なことは、そんなことじゃない。いつかずっと後になったら、選んだ事と選ばなかった事の区別も、はっきりしなくなるに違いない。
読了日:01月30日 著者:イーディス・パールマン
みかづき (集英社文庫)みかづき (集英社文庫)感想
夫婦が始めた私塾の物語はこの国の教育と教育行政の変遷の物語に繋がっている。同時に夫婦と親子三世代の物語だ。体中が熱くなるような気持で読む最後の章は、あの始まりの昭和36年の用務員室に繋がっているようだった。そして、タイトルになった「みかづき」の意味を知る。そのおおらかに開かれた空間。
読了日:01月28日 著者:森 絵都
あめの ひの ピクニック くまのアーネストおじさんあめの ひの ピクニック くまのアーネストおじさん感想
大好きなシリーズだけれど、なかでもこの本が一番好き。最高のごっこ遊び。そこに付き合う、というより一緒に楽しむ大人のアーネストがとても素敵だと思うのだ。むかし。こんなピクニックしたいね、と子どもと話したこと、その後、家の内外で、工夫を凝らした子どものテント(?)らしきものを発見した時の心楽しさなどを思い出す。
読了日:01月27日 著者:ガブリエル・バンサン
あめかっぱあめかっぱ感想
降りしきる雨の下で深い緑がまぶしい。濡れた森の匂いがしてきそう。指で絵をたどりながら遊ぶ楽しさ。そうだそうだ、雨の日ってほんとは良いお天気なんだねと、絵本のなかの子どもたちに呼び掛けたくなる。雨の降る日は良い天気。雨が降るから良い天気。ページをめくるたびにずっと雨の音が聞こえていた。あとになるほど楽しげに。
読了日:01月26日 著者:むらかみさおり
魔術の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)魔術の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
犯人やトリックが明らかになった時より殺された人の思いがけなさに驚いてしまった。それにしても極められた理想が住まうところにはちょっと怖じけてしまう。この屋敷が纏うただならない感じはその気高さにあるのではないか。ミス・マープルはここで起きた出来事を魔術にたとえる。見せられているのは舞台のうえで繰り広げられる魔術だ。
読了日:01月24日 著者:アガサ・クリスティー
あしなが蜂と暮らした夏 (単行本)あしなが蜂と暮らした夏 (単行本)感想
緻密な観察の記録だ。今まで全く知らなかった蜂の暮らしや行動は、驚くことばかりだ。この本は、やさしい科学の本とも呼べそうだけれど、まわりの空気まで抱き込んだおおらかなユーモアも感じる。あしなが蜂を甲斐さんの後ろから覗いているうちに、じわっと胸が熱くなってくる。あなたもわたしも一緒、命あるもの同士だねえ、と。
読了日:01月23日 著者:甲斐 信枝
なぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれないなぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれない感想
誰とも会えなくても、会わないまま、声さえ聞かないまま、挨拶をおくりあうことはできるのかもしれない。会えない今だから行きずりの人と会釈を交わしたことや、ちょっと微笑みあったことで気持ちが上向くもの。アフターコロナなんてまだ考えられないけれど、自分と同じように暮らしている人たちに、無言のまま挨拶したい。
読了日:01月22日 著者:辻 仁成
掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集感想
最後の物語『巣に帰る』には、「もし」という言葉が出てくる。人生を振り返れば、無数の「もし」が思い浮かぶけれども、たとえば、あのときの「もし」。あのとき違う選択をしていたら……語り手の言葉の最後の一行に、これまでの24の物語が一気に甦る。確かな存在感とともに。
読了日:01月21日 著者:ルシア・ベルリン
動く指 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)動く指 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
この物語はもちろんミステリだけれど、ロマンスでもある。あちらこちらで、小さな恋が花咲いている。語り手ジェリーは、物語の中で、自分が恋をしていることに気がつくが、彼の行動のひとつひとつが、過去のさまざまな恋愛小説のオマージュのようで、思わず微笑んでしまう。
読了日:01月19日 著者:アガサ・クリスティー
思い出のスケッチブック:『クマのプーさん』挿絵画家が描くヴィクトリア朝ロンドン思い出のスケッチブック:『クマのプーさん』挿絵画家が描くヴィクトリア朝ロンドン感想
次から次にこぼれるエピソードに、思わず笑顔になる。七歳の子どもの背中から、当時のロンドンの風物や人々の様子がくっきりと浮かび上がってくる。一章一章が、嘗て彼が挿絵を描いたあれこれの児童書の続きの「お話」のようでもある。かけがえのない輝かしい日々。
読了日:01月18日 著者:E・H・シェパード
晩年の父 (岩波文庫)晩年の父 (岩波文庫)感想
思い出の父との日々は絵のようだ。小さい姉弟の無邪気で屈託ない暮らしが父という光を受けてほの明るく浮かび上がってくる。おとぎ話の子どものように。娘は、父に与えられたもの(早くに別れた寂しさ、後ろ楯をなくした心もとなさまでも含めて)を振り返る。自分の現在の幸せは父から与えられたものであるという言葉が心に残った。
読了日:01月17日 著者:小堀 杏奴
ねんてん先生の文学のある日々ねんてん先生の文学のある日々感想
「文学はつまみ食い」「読んでわくわくすること」「私たちの日々を活気づけてくれる大切な要素」だけど、苦しいのをがまんして直視しなければならないものがあること。「うふふふふ」の奥の深さ広がりに畏れ入ってしまう。ねんてん先生の「快楽」や「わくわく」は、そうして初めてたどりつくものの上にあるのだろう。
読了日:01月16日 著者:坪内 稔典
きぼう―HOPE― (評論社の児童図書館・絵本の部屋)きぼう―HOPE― (評論社の児童図書館・絵本の部屋)感想
うちひしがれているときに「きぼう」をもつことはむずかしい。悲しみがあふれてしまいそうな一日一日の生活のなかで、「きぼう」をもとうとする小さな男の子の姿に胸がいっぱいになる。「希望」って本当は何なのだろう。どういうものなのだろう。考えないではいられなくなる。やわらかい色づかいの強くてやさしい絵本
読了日:01月14日 著者:コーリン・アーヴェリス
書斎の死体 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)書斎の死体 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
「今度の事件で厄介だったのは、誰もがすべてを頭から信じこんでしまったからなの」 とはいえ、すべてってそんなところまで含めるのか。元警視総監サー・ヘンリーがミス・マープルに言う「ワトソン役として申し上げるなら…」なんだか愉快になってしまう。小さな村の小さなおばあちゃんが名探偵で、元警視総監がワトソン役だなんてね。
読了日:01月13日 著者:アガサ・クリスティー
こわれがめ―― 付・異曲 (大人の本棚)こわれがめ―― 付・異曲 (大人の本棚)感想
舞台の上で演じられる猿芝居がおかしい。泡食った誰かさん、墓穴掘りっぱなしの誰かさん、冷ややかに楽しんで眺めている誰かさんに、半分くすくすわらい、半分じれながら、見物していた。だけど、だんだん笑えなくなってくる。正義は本当に行われたのかな。これでめだたしめでたし。でいいのかな。
読了日:01月12日 著者:ハインリッヒ・フォン・クライスト
その姿の消し方その姿の消し方感想
詩人と詩の意味を探すことで見えてくるもの、消えていくものと。読み終えて巻末の初出一覧を見る。この物語の13章は、13篇の短編として嘗て、いくつかの文芸誌にぽつぽつと発表されてきたものだったと知った。物語の中にも外にも(作中にも現実にも)、よく似た物語が重なっている。不思議な入れ子のようだ。
読了日:01月10日 著者:堀江 敏幸
アウグストゥスアウグストゥス感想
愛したものが次々に零れ落ちていくような最後の時に、手の上には何が残っていたのだろうか。彼は愛した人だった。彼は詩人を愛した。詩を愛した。彼自身が詩人だった。彼の詩は世界だった。彼は、どこまでも未完の詩を書き続けているのだ。それは、大きな意味で、静かなよろこび、と言えるのではないか。と、この寂寥感のなかで、思う。
読了日:01月09日 著者:ジョン ウィリアムズ
牧師館の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)牧師館の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
人は、見かけによらないもの。意外な人たちが意外な顔をもっていることに驚く。一方で、こんな仮面をかぶらなければいられなかった人びとの暮らしのしんどさなどを思う。「よどんだ池」のような村(ミス・マープルによれば、世界の縮図)がちょっと鬱陶しくなる。
読了日:01月07日 著者:アガサ クリスティー
身近な鳥の生活図鑑 (ちくま新書)身近な鳥の生活図鑑 (ちくま新書)感想
スズメ、ハト、カラス……お馴染み過ぎて見えなかった町の鳥たちのこと。十人十色の考えのひとたちのなかで、著者は「いろいろな考え方があって、ただ一つの正しい答えはない」としながら、「どちらの立場の人も、相手の考えを尊重し合える「ゆるやかさ」があるとよいなと思います」という。この考え方、いいなあ、と思った。
読了日:01月05日 著者:三上 修
あの湖のあの家におきたことあの湖のあの家におきたこと感想
人が伸びやかに暮らしている時、家は一層美しく誇らかに見える。人の気配が消えて、家が傷んでいくまま、それでも立ち尽くしていなければならない家は不幸だ。これは、きっと、もう一つの「ちいさいおうち」。本当にあった「ちいさいおうち」の物語で、この絵本のページの外にまではみだすたくさんの物語を抱えている。
読了日:01月04日 著者:トーマス・ハーディング
日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)感想
海岸べりの都と内陸部の村の生活の違いの激しさ。素晴らしかった風景描写。懐かしい古い地名の私の郷里、この景色はもうここにはない。読んでいると私のほうが著者よりもこの国を知らない外国人のよう。130年も昔。外国より、もっと遠い処に私は暮らしているのだと思った。
読了日:01月03日 著者:イザベラ バード
リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュリマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ感想
「わたしに見えている部分が、その人のすべてじゃない」きっと自分もいろいろな部分を持っていること、これからももっともっと持てることを見つけたのかもしれない。「リマ・トゥジュ……」おまじないのような言葉にはもちろん意味があるけれど何より口ずさんで楽しい言葉だ。読み終えてからも気がつけば口の中で唱えている。
読了日:01月01日 著者:こまつ あやこ

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