『なぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれない』 辻仁成

 

なぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれない

なぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれない

  • 作者:辻 仁成
  • 発売日: 2020/08/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

新型コロナウィルス流行によるフランスの2ヶ月間のロックダウン期間を中心にした、2020年2月1日から6月18日までの日記である。webサイトマガジンで連載していたものをまとめたものだそう。


一人息子への思いや、自分自身の気持ちの浮き沈み、日常のことから、世界各地の出来事など。
差別のこと。
考える時間ならたっぷりある。


当たり前ではない日々に、当たり前の日々と同じように書き続けられた文章なのだ、と思う。
コロナがあろうとなかろうと、世界は続いているのだ。


つい昨日のことだ、と思うのに、そして、まだ何も終わっていない(始まったばかり?)というのに、遠い過去の話を読んでいるような気持ちになる。ああ、そんなことがあった、あの頃ってそうだったよね、と。
あまりに生活ががらりと変わってしまったから。腹をたてたり不安になったり、ちょっとしたことにほっとしたりするそういう気持ちにさえ、自信が持てなくなっているから。
普通に暮らそうとする誰かの声が聞きたかった。


「みんなマスクをしている。そして、みんな他人を警戒している。ロックダウンになる前のパリの光景ではなかった」
人との接触を絶ちきり、閉じ籠った日々のことが書かれていたはずなのに、読んだのは、むしろ、繋がりの物語だったような気がする。
行き付けのカフェや、マルシェの店主、「よう」と声掛け合って通りすぎる行きずりの顔見知り。
誰とも会えなくても、会わないまま、声さえ聞かないまま、それでも挨拶をおくりあうことはできるのかもしれない。


会えない今だから、行きずりの人と会釈を交わしたことや、ちょっと微笑みあったことで、気持ちが上向くもの。
アフターコロナなんてまだまだ、とても考えられないけれど、自分と同じように暮らしている人たちに、無言のまま挨拶したい。