『こわれがめ』 ハインリッヒ・フォン・クライスト

 

 

舞台の上は、村の法廷で、なぜか大怪我のうえ、かつらを失くした裁判官アーダムがいる。
そのまえで、マルテおかみさんは、大切な甕を壊した犯人を罰してほしいとまくしたてる。
犯人とは、娘エーフェの許婚ループレヒトのことだ。昨夜の11時頃に、娘の部屋で騒ぎの音を聞きつけて、マルテおかみが飛んでいけば、そこにはエーフェとループレヒトがいて、大切な甕が壊れて転がっていた、というのだ。
無実だと訴えるループレヒトと、なぜか何もいわないエーフェ。
裁判官はろくに話も聞かず、さっさと判決をくだして、おしまいにしたいと思っている。こんないい加減な話がまかり通っていいのか。こんな裁判、ごめんである。
ところが、この日は、監査にやってきた司法顧問官ヴァルターが同席している。
裁判官アーダムとしては、やりにくいことこのうえない。司法顧問官に突っ込まれるたびに、あらかじめ考えていた筋書きを、場当たり的に修正していくから、あちこちに綻びが顔を出す。
それにしても、何もかも知っているはずのエーフェは、なぜ口を開かないのか。


ドイツ三大喜劇のひとつだそうだ。
昨夜本当は何が起こっていたのか、読者は最初からわかっている。
舞台の上で演じられる猿芝居がおかしい。泡食った誰かさん、墓穴掘りっぱなしの誰かさん、冷ややかに楽しんで眺めている誰かさんに、半分くすくすわらい、半分じれながら、見物していた。
だけど、だんだん笑えなくなってくる。正義は本当に行われたのかな。
これでめだたしめでたし。でいいのかな。


この本には、おしまいのほうが少し違う「異曲」「手稿」も載っている。どちらも、すこし苦い。