12月の読書

12月の読書メーター
読んだ本の数:23
読んだページ数:6298

十二人の手紙 (1978年)十二人の手紙 (1978年)感想
12人とその関係者による手紙のやりとり。面白いと思うのは、それぞれの主観が入り乱れたりするあげくに、もしやこれはミステリ?と思うほどの急転直下の展開。驚かされ方の多彩なこと。人ってこんなに多様な面を持っていたんだねえ、と思ったり、こみ上げる笑いにも、こんなに多様な笑いがあったんだねえ、と感心せずにはいられない。
読了日:12月30日 著者:井上 ひさし
うつくしい羽うつくしい羽感想
読み終えたあとにやってくる充実感は、その「来る日も来る日も」の延長線上にある、と感じる。いつのまにか大きな山を越えていたのかな、とそこへ来てから思う。また、この物語がまるい輪になっている、と感じるせいでもある。物語の始まりとおしまいが重なって閉じた輪になる心地良さ。
読了日:12月28日 著者:上村渉
ミス・マープルの名推理 予告殺人 (ハヤカワ・ジュニア・ミステリ)ミス・マープルの名推理 予告殺人 (ハヤカワ・ジュニア・ミステリ)感想
先に読んだアガサ・クリスティー文庫の『予告殺人(新訳版)』と本文は同じもの。ふんだんな挿絵が盛り込まれた楽しい本だけれど、その挿絵。登場人物がみな若々しい。ことに断髪のミス・マープル。同じ本を読みながら、心寄せる登場人物をそれぞれ違う姿に思い描いているかもしれないと思えばおもしろいかな。
読了日:12月26日 著者:アガサ・クリスティー
予告殺人〔新訳版〕 (クリスティー文庫)予告殺人〔新訳版〕 (クリスティー文庫)感想
新聞の個人広告欄に乗った殺人のお知らせ通りの日時・場所で人が死ぬ。単純そうな事件の真相は意外なところに……。読み終えて心に残るのはこの村の雰囲気。戦後、生き抜いて、ここに辿り着いた人々、ことに老人たちが元気で、いたるところに仕込まれたユーモアが楽しかった。
読了日:12月25日 著者:アガサ クリスティー
コヨーテのはなし アメリカ先住民のむかしばなし (児童書)コヨーテのはなし アメリカ先住民のむかしばなし (児童書)感想
17話どれも、アメリカの広い大地を思う存分に駆け抜けていく、犬の兄貴分のようなコヨーテの活躍が痛快だ。たとえ、ひとが騙されて出し抜かれている時でも。そう思うのは、騙された人が、やれやれ、まいったね、とため息をつきながらも、一方で、相手(自然?)へのそれとなしの敬意を感じるからでもある。おおらかだなあ。
読了日:12月24日 著者:リー・ペック
私はゼブラ (エクス・リブリス)私はゼブラ (エクス・リブリス)感想
旅する彼女の荷物はほとんどからっぽだ。だけど、それは見せかけ彼女は内側に、抱えきれないほどの見えない重たい荷物を詰めこんでいる。「死」を。彼女は意気揚々と文学を語るがそれは死の言葉なのだ。彼女の旅の目的地は、見えない荷物を安心しておろせる場所だろうか。(そうあってほしい)
読了日:12月23日 著者:アザリーン・ヴァンデアフリート・オルーミ
櫛挽道守 (集英社文庫)櫛挽道守 (集英社文庫)感想
目まぐるしい社会の変化の中で、確かなものは、板の間から聞こえてくる櫛挽く音。呼吸のように規則正しい音は、胸に心地よく響く。一芸を深く追求していく人にしか見えないもの、見極められるものがあることを誰が知るだろうか。読み終えても、胸の内に櫛挽く音のリズムは残る。心地よく響く音を静かに聞いている。
読了日:12月21日 著者:木内 昇
火曜クラブ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)火曜クラブ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
13の迷宮入りは短編なので、すぐに事件が起こりミス・マープルによりすぐに解決されていく。これまで読んだアガサ・クリスティーの物語は上流階級の人たちの間で起きた事件が多かったが、ミス・マープルの言い草を聞いていると、高所の人々が、ちょうど私の立つ地面の上まで引き下げられたように感じるのがいい。
読了日:12月20日 著者:アガサ クリスティー
ゾウと ともだちになった きっちゃん (福音館の科学シリーズ)ゾウと ともだちになった きっちゃん (福音館の科学シリーズ)感想
人でもゾウでも他の動物でも、いつのまにか伝わらなくて当たり前といい加減なところであきらめてしまう。きっちゃんはあきらめない。だって、ゾウが大好きで、ゾウのことをよく知りたいと思うから。だから「ブルブルブル」に感動する。気がつかないくらいの小さな空気のゆれに。気持ちが通ったと感じる瞬間はこんなにも嬉しい。
読了日:12月18日 著者:入江 尚子
世界とキレル世界とキレル感想
スマホが自分の生活のなかでどんなに大きな場所をしめていたことか。舞に起こること、舞が感じること考えることそして行動すること、その一つ一つが、新鮮で夢中になってしまう。一方で、24時間、生活の場にカメラが回っていて、自分の暮らしを不特定多数の目が見ている、っていう状況は、わたしには異常で気持ち悪いものだった。
読了日:12月17日 著者:佐藤 まどか
槍ヶ岳山頂槍ヶ岳山頂感想
この絵本の一番最後の「ぼく」のことば「またこよう」声に出して言ったわけではない。ここまで読んだ(眺めた)絵本のページが再び目の前に広がる。「ぼく」は黙ったまま自分の胸に刻み込んだのだろう。声に出さなくても傍らにいる人にはわかるのだ。おとうさんにもそういうときがあったに違いないから。これほど嬉しい言葉はない。
読了日:12月16日 著者:川端 誠
心の宝箱にしまう15のファンタジー心の宝箱にしまう15のファンタジー感想
特に好きな作品をあげるなら『三つめの願い』『からしつぼの中の月光』『十字軍騎士のトビー』かな。そう思うそばから、あれもこれもと様々な作品が思い浮かんでくる。どの作品も忘れがたい(それぞれ全く違う質の)余韻が残っている。タイトルは『心の宝箱にしまう……』だけど、すぐに取り出せるようにいつもそばに置いておこう。
読了日:12月15日 著者:ジョーン エイキン
ベツレヘムの星 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)ベツレヘムの星 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
聖書から題材をとったという、詩と短編物語を集めたこの小さな美しい本がミステリの女王アガサ・クリスティーの作品なのだ。どの物語もお祭りの賑やかさとは遠く、静かに「クリスマスってどういう日?」と思いめぐらしたいときに相応しい本と思う。盛大な血の『ポアロのクリスマス』を読んだ後に、静かなクリスマスがやってきた。
読了日:12月13日 著者:アガサ・クリスティー
ポアロのクリスマス (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)ポアロのクリスマス (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
伝統的なイギリスのクリスマスの楽しみは一切出てこない。あるのは血と疑心暗鬼ばかり。クリスマスという言葉は皮肉だろうかと思う。だけど、何もかもが終わってみれば、静かに本当の和解が始まっているのに気がつく。故人のクリスマスプレゼント(いささか意に反していたかもしれないけれど)がやっと届いたようなラスト。
読了日:12月12日 著者:アガサ・クリスティー
モーターサイクル・ダイアリーズ (角川文庫)モーターサイクル・ダイアリーズ (角川文庫)感想
どうするの、今度こそどうにもならないじゃないか、と思う場面はあちこちにあったのになんとかしてしまう不思議さ。不敵さ。そして旅は続く。ハチャメチャな日々のなかでひかるあれこれの小さなショット。身一つ(二つか)の気ままさが冴える。ほぼ名前しか知らなかった偉大な革命家の、ちっとも偉大ではなかった若き日が眩しかった。
読了日:12月10日 著者:エルネスト・チェ・ゲバラ
シェルパのポルパ エベレストにのぼるシェルパのポルパ エベレストにのぼる感想
ヒマラヤのダイナミックな自然を味わう。そこで暮らす人々、登山者たちを支えるシェルパの仕事を読んでいく。それとともに、始まりの日にむかって踏み出そうとしているポルパたちが世界じゅうにいることを思う。さまざまな頂上に臨むポルパたちに、よい旅でありますよう、よい同行者に恵まれますように、と願っている。
読了日:12月09日 著者:石川 直樹
親になるまでの時間 後編 (ちいさい・おおきい・よわい・つよい No.116)親になるまでの時間 後編 (ちいさい・おおきい・よわい・つよい No.116)感想
親が親になるまでには時間が必要なのだ。とっくに子育て終了の私が、未だに親になりきれていない、と思うのは、平均や比較の呪いから今も自由になっていない、と感じてしまったから。この先、まず自分自身が自由になるためにどうしていこうか、と考えている。
読了日:12月08日 著者:浜田 寿美男
親になるまでの時間 前編 (ちいさい・おおきい・よわい・つよい No.115)親になるまでの時間 前編 (ちいさい・おおきい・よわい・つよい No.115)感想
「こどもたちがそれぞれの力で生活を楽しみ、自分なりの世界をくり広げているかどうか、また親としてこどもにその手持ちの力を使う機会を十分提供できているかどうか」「こどもがそのときの手持ちのことばを十分に使って、周囲とコミニュケーションする喜びを味わうこと」
読了日:12月08日 著者:浜田 寿美男
注文の多い注文書 (単行本)注文の多い注文書 (単行本)感想
添えられた品々の写真の美しさ、不思議さ、緻密さに、うっとりしてしまう。こういう品物がこういう姿で、きっと存在しているのではないか、と思えて。 でも、それ以上に、注文書に書かれたそれぞれのお客の物語に真摯に耳を傾けようとする商會がわの姿勢がいいなあ、と思う。
読了日:12月06日 著者:小川 洋子,クラフトエヴィング商會
ホロー荘の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)ホロー荘の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
この邸の佇まい、住まう人々の雰囲気に魅せられる。登場人物一人一人の魅力は、内からあふれてきて読めば読むほどに豊かに輝きだす感じで、目を見張ってしまう。犯人捜しがどうでもよくなるくらいにこの雰囲気にもうちょっと浸っていたいくらい。何も解き明かしてほしくないくらい。(実際、とても凝った仕掛けに驚くのだがそれでも。)
読了日:12月05日 著者:アガサ クリスティー
忘却についての一般論 (エクス・リブリス)忘却についての一般論 (エクス・リブリス)感想
生きてここにいることの不思議さ。何もできなくても、誰とも交われないとしても、生きてここにいる、それだけですごいと思う。最後まで何も知らずに終わったとしても、思いがけないときに思いがけないところで私たちはどこか別のところと繋がっているかもしれない。
読了日:12月03日 著者:ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ
書記バートルビー/漂流船 (古典新訳文庫)書記バートルビー/漂流船 (古典新訳文庫)感想
(漂流船)「解説」を読み、初めて見えなかった全体像が少し見えてきた。二重の仕掛けのある(かなり意地が悪いともいえる)こんな小説を描きだすメルヴィルすごい。私は見事に一般の白人層(実際わたしは白人ではないが)に嵌って読んでいた。何も知らぬまま心動かされた言葉が蘇ってくる。「…セネガルに戻る……」
読了日:12月02日 著者:メルヴィル
塵に訊け!塵に訊け!感想
一つの時代の終わりの物語だ。心からほしかったものを得て、大切なものを手放す日の物語。何にも持っていなかった日、逆立ちしても手に入らないものが、いつかは自分のものになると思った。そうして星を見ていた。カリフォルニアの夜はこんな季節でもやはり温かいのだろうか。おだやかに晴れた夜空に投げ上げたい言葉が、光景がある。
読了日:12月01日 著者:ジョン ファンテ

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