『ミス・マープルの名推理 予告殺人』 アガサ・クリスティー

 

 

先に読んだアガサ・クリスティー文庫の『予告殺人(新訳版)』と本文は同じものだった。


新聞の個人広告でお知らせされた殺人が、ゲームでもイタズラでもなく、期日と時間を守ってきっちりと実行されるところから始まる物語だ。
酷い殺人の物語であるけれど、散りばめられたユーモアや茶目っ気が楽しい。
まずは、牧師夫人の歌う替え歌を聞きたい。
「今日は晴れた殺人日和 五月のようにうららかな日
 ……
 今日はみんな出かける 殺人に!」
また、ミス・マープルをはじめ、好奇心旺盛で、何があってもくじけないように見える老嬢たち(小さな村の、小さなお付き合いのなかに、よくもまあ集まったものです)があっぱれで、彼女たちを見ていると元気がもりもり湧いてくる。


この本は、文庫よりも大きめの本で、ふんだんな楽しい挿絵が盛り込まれている。
これは、若い人たちのための叢書「ハヤカワ・ジュニア・ミステリ」の一冊なのだ。
この本なら、たぶん小学生でも楽しめると思う。ここから、アガサ・クリスティー文庫に手を伸ばす子も現れるだろう。


楽しい一冊だけれど、実は、一番気になったのが、挿絵なのだ。挿絵の力って大きいと思う。
表紙の絵を見てくださいな。この断髪の現代的な女性が、ミス・マープルだという。
ミス・マープルだけではなく、ほぼすべての人物(大半は老人であるが)がとても若々しく描かれている。
この本を手に取る若い読者たちが登場人物により親近感を持てるように、との配慮だろうか。


この本にはミス・マープルの容姿についてはほとんど書かれていなかったと思うが、この間読んだ『火曜クラブ』(ミス・マープル初登場の短編集)には、「腰のまわりをぐっとつめた黒いブロケードの服を着ていた」「手には黒いレースの指なし手袋をはめ、雪白の髪を高々と結い上げた上に黒いレースのキャップをのせている」「うす青いやさしそうな目」と書かれている。
人の好さそうなお婆さんが、実は名探偵というのが、思いがけなくて面白いと、わたしは思ったのだけれど……。
同じ本を読みながら、心寄せる登場人物を、それぞれまったく違う姿に思い描いているかもしれないと思えば、それもおもしろい。かな。