『コヨーテのはなし』 リー・ペック/ヴァージニア・リー・バートン

 

 

ヨーロッパの民話では、キツネがかしこい動物の代表になっているし、アメリカ南部の黒人の物語では、賢いのはウサギだと言われるそうだ。
そして、アメリカ南西部の先住民の間では、コヨーテが動物のなかで一番賢い、と言われるのだそうだ。
ここには、先住民の民話から、コヨーテってこんなに賢いんだよ、というお話が17話収録されている。


賢い、と言っても、賢さの中身はいろいろだ。
まずは、暗闇で震えている太古の人間たちのもとに火(太陽、月、星)をもたらしたのは、知恵を絞ったコヨーテだし、ずっと〈冬〉が続く大地に、意地の悪い精霊に囚われた〈春〉〈夏〉〈秋〉を解放したのもコヨーテだった、という神話のような物語がある。
それから、他の動物に泣かされている動物や、困っている人間を、頓智を尽くして助ける物語がある。
ずるがしこく立ち回り、人や動物たちを出し抜いてうまいことやってのける物語もある。


どれも、アメリカの広い大地を思う存分に駆け抜けていく、犬の兄貴分のようなコヨーテの活躍が痛快だ。
たとえ、ひとが騙されて出し抜かれている時でも。そう思うのは、騙された人が、やれやれ、まいったね、とため息をつきながらも、一方で、相手(自然?)へのそれとなしの敬意を感じるからでもある。あっぱれなやつよ、と。
おおらかだなあ。


「ちいさいおうち」などなどの名作絵本を送り出してくれたバージニア・リー・バートンの、隅々まで美しい、沢山の挿画も味わい深い。