『モーターサイクル・ダイアリーズ』 エルネスト・チェ・ゲバラ

 

1951年、52年。革命家のエルネスト・チェ・ゲバラも、まだその頃は、ただの医学生だった。
彼は、友人のアルベルト・グラナード医師とともに、オートバイ、ポデローザ2号で、気ままな南米旅行に出発する。
通り抜けた国は、アルゼンチンを出発して、チリ、ペルー、ブラジル(ほんのちょこっと)、コロンビア、ベネズエラ
(ここで記録は尽きるけれど、アルベルトと別れたゲバラは一人で北米に渡り、もうちょっとだけ旅を続けた。)


ほぼ名前しか知らなかった偉大な革命家の、ちっとも偉大ではなかった若き日々のなんと眩しかったことか。
チェ・ゲバラのことをもうちょっと知りたくなった。


何度も修理してだましだまし乗ってきたおんぼろバイクのポデローザ2号はチリで完全に動かなくなり、あとは徒歩やヒッチハイク、密航などで旅を続ける。
貧乏二人、ごはんや一夜の宿を、絶妙なコンビネーションでたかりながら旅する二人、バイクを失って「モーター付きたかり屋」から「モーターなしのたかり屋」になってしまった、と嘯く。


凍えて歩く真夜中の砂漠。渇きにあえぐ昼の砂漠。
とんでもないトラックに乗せてもらって寿命を縮めた一日。
川で釣りあげた魚を食べて、砂糖たっぷりのマテ茶を呑む。
何はおいても、いつだって、まずは薬缶で湯をわかして二人、マテ茶を飲んでいた。
急流をいかだで下る旅は快適だったが、問題はどうにも目的地では止まれないこと。
雲霞となってまといついてくる蚊に悩まされたこと。
体調不良をやり過ごした日々。
そして、あちこちでもてなしてくれた善意の人々と、ならず者からまきあげようとする、更なるならず者との出会い。


どうするの、今度こそどうにもならないじゃないか、と思う場面はあちこちにあったのに、なんとかなってしまう(なんとかしてしまう)不思議さ。不敵さ。
そして旅は続く、続く。懲りずに続ける。
ハチャメチャな日々のなかでひかるあれこれの小さなショット。
身一つ(二つか)の気ままさが冴える。
良き旅を、なんて言わない。そのまま行けるところまで、読者のわたしもついていく。