『シェルパのポルパ エベレストにのぼる』 石川直樹(文) 梨木羊(絵)

 

シェルパのポルパ エベレストにのぼる

シェルパのポルパ エベレストにのぼる

  • 作者:石川 直樹
  • 発売日: 2020/05/29
  • メディア: 単行本
 

 

ポルパ少年は、ヒマラヤの山々に囲まれた村で育った。ここは山岳民族であるシェルパたちの村なのだ。
ポルパも、荷物運びの仕事をしている。
重たい荷物を背負って彼が行けるのは、氷河の入口までだけれど、いつか、この村の大人たちのように、ヒマラヤの高い山に登ることを夢見ている。
そして、とうとうテンジンおじさんの許しがあり、本格的な山登りを教わるときがくる。


これから始まる登山シーズンを前に、キャンプを設営しながら慎重にエベレストに登っていくシェルパたちの中に、ポルパがいる。
ともにロープでからだを結びあって進む。
初めて一行に加わる少年とともに、もくもくと登っていく大人たちの姿の何と頼もしいことだろう。
見開きを縦にして描かれているのは、見上げるようなエベレストの姿。
麓のベースキャンプから始まり、頂上にひらめく旗に至るまでの赤い線は、テントを張りながら登っていくポルパたちの道すじだ。赤いジグザグの線が容易ない道のりを示している。


ポルパは、一歩一歩、自分の足でのぼっていく。
「はーっ、はーっ、ふーっ」と、苦しい息をしながら、のぼっていく。
雲より高いところを風といっしょに飛んでいく「かぜのとり」たちを見る。
夜明けには、雲海の上にエベレストの影が映るのを見る。
道々、見たもの、感じたこと、考えたこと、どれもきっと、ポルパの宝物になる。きっと、ずっと忘れない。
氷河を前にして「いつかいきたい、いきたい、いきたいなあ」と言っていた子の頂上は、ゴールではなくて、始まりだ。

 
絵本を広げて、ヒマラヤのダイナミックな自然を心ゆくまで味わう。
そこで暮らす人々、とりわけ登山者たちを支える縁の下のシェルパたちの仕事を知る。
そして、それとともに、絵本を眺めながら、始まりの日にむかって踏み出そうとしているポルパたちが世界じゅうにいることを思う。
さまざまな場所で、さまざまな頂上に挑むポルパたちに、よい旅でありますように、よい同行者に恵まれますように、と願っている。