『注文の多い注文書』 小川洋子;クラフトエヴィング商會

 

注文の多い注文書 (単行本)

注文の多い注文書 (単行本)

 

 

「都会の中の引き出しの奥」のような街区のそのまた奥の狭い袋小路のどん詰まりに店を構える「クラフトエヴィング商會」は、どんなものも取り扱っている。取り寄せてくれる。とりわけて「ないもの」を。
この本には、そうした注文の五つのケースが取り上げられているが、その注文品ときたら……かぐや姫が求婚者たちに取ってこさせようとした品々に、ちょっと似ているかもしれない。そんなものがあるだろうか、むしろ、そんなものをどうして考え付いただろうか、と思うような珍妙な品々だ。


この本には、五つのケースが紹介されているが、どのケースも、「注文書」「納品書」「受領書」で構成されている。
注文書と受領書を担当するのが小川洋子さん。
納品書を担当するのが、クラフトエヴィング商會さん。


まるで謎かけのような注文書である。
五つのケースに共通するのは、それぞれ思い入れのある本に関する注文である事。読みようによっては、ちょっと変わった読書案内にもなっている、と思う。
何しろ、その本から発生(?)した不思議な出来事に関わる不思議な品を、さがしてほしい、という注文なのだから。
注文書は注文書でありながら、さあ、こんな注文にどうこたえる?という挑戦状のようでもある。
あまりに難題過ぎて……。


けれども、その難しい注文に毎度毎度、しっかりと答えるのが、クラフトエヴィング商會の納品書である。世にも奇妙な品物の精巧な写真を幾枚も添えて。
品物を探し出して、納品するまでの物語とともに。


そして、一つのケースを受領書まで読むと、ああ、とため息をついてしまう。これで、ひとつの短編小説になっている。
五つのケースは五つの物語だった。


添えられた品々の写真の美しさ、不思議さ、緻密さに、うっとりしてしまう。こういう品物がこういう姿で、きっと存在しているのではないか、と思えて。
でも、それ以上に、注文書に書かれたそれぞれのお客の物語に真摯に耳を傾けようとする商會がわの姿勢がいいなあ、と思う。
誰かが、ある品物を探している。どうしてもそれでなければならないという思いは、その人の人生に深く関わる。
それが物語を支えている。


凝ったデザインの本で、一冊まるまる工芸品のような趣だ。
あら、こんなところにも、こんなご馳走が隠されていたよ、と思う素敵なものが、すました顔でちらほら配置されているから、みつけると、とっても嬉しい。