11月の読書

11月の読書メーター
読んだ本の数:20
読んだページ数:6574

南風(みなみ)吹く南風(みなみ)吹く感想
『春や春』の茜たちが目指した俳句甲子園を、同じ年に、五木分校も目指している。『春や春』同様、俳句に夢中になり、言葉を深く追求していく高校生たちだが、置かれた状況によって取り組み方はずいぶん違う。生まれる句も違う。おもしろいと思う。「草笛」の句が好きだ。
読了日:11月29日 著者:森谷 明子
春や春春や春感想
「言葉をとことん吟味する濃密な時間」俳句甲子園に挑む高校生たちの、言葉への鋭さ、真剣さに、どきっとする。ゆっくり読み、味わっている間に、視界が開けるように見えてくる景色を眺めることの歓びを味わっている。
読了日:11月27日 著者:森谷 明子
象は忘れない (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)象は忘れない (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
「人生のすべてを楽しんでいいらっしゃるんですね」に「ええ、そうなんですの。つぎにどんなことが待ちうけているかわからないって、そういう気持ちなんでしょうね」ミセス・オリヴァの若々しさの源泉に触れたような気持ち。彼女の若者に対するおおらかさの源泉でもあると思う。ミセス・オリヴァにあやかって毎日を過ごしたいものだ。
読了日:11月25日 著者:アガサ クリスティー
天使はポケットに何も持っていない (Modern&Classic)天使はポケットに何も持っていない (Modern&Classic)感想
方法は滅茶苦茶だったけど、父への告別と、自身の長い再生の道への初めの一歩。不器用すぎる主人公のために、その案内役を、一頭のブルテリアが勤めてくれた。そんな気がする。時期はクリスマス。温かい(もしかしたらそれほどきれいではない)LAの空に向かって深呼吸したくなった。
読了日:11月24日 著者:ダン・ファンテ
次の夜明けに (現代台湾文学選1)次の夜明けに (現代台湾文学選1)感想
林家の父たちと息子たちは互いに相手をねじ伏せようと闘うけれど、その闘いはいつのまにか相手を理解しようとする闘いになっていることに気がつく相手を受け容れられなければ自分自身を解き放つことができないのだ。対立する物語の先にあるのは受容、なのかもしれない。作者は、三世代の親子たちの向こうにきっと台湾をみつめている。
読了日:11月23日 著者:徐嘉澤
檸檬 (角川文庫)檸檬 (角川文庫)感想
みすぼらしくて美しいもの、ときどき危険をはらんで、暗がりで輝く。時々、爆弾に変わるもの。 冷たくて、小さくて美しい爆弾。それは、主人公の頭のなかだけにある。折り目正しくお高いものたちの上に、破裂し、飛び散るはずの色の洪水。その美しさを想像するだけの、ささやかで凶暴な、誰も知らない反逆なのだと思う。
読了日:11月22日 著者:梶井 基次郎
兵士たちの肉体兵士たちの肉体感想
実際にあった事件が下敷きになっているというあの出来事。物語には、それ以前と以後がある。ことに、少ないページに凝縮された「以後」が。その以後の物語が忘れられない。以前と、すっかり境遇が変わってしまった人たちと相変わらずの人たち。でも、見た目では何もわからない。確かに、ひとつの青春記物語だと思う。きついけれど。
読了日:11月20日 著者:パオロ・ジョルダーノ
五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
五つの証言から、ポアロは過去を鮮やかに再建してみせてくれる。読み終えて思っているのは、被害者には(死者にムチうつようだが)こうなる前に豆腐の角にでも頭をぶつけてみればよかったのにってことと、容疑者が身にまとう気品だ。「結局、二人は死ななかったのです。死んだのは……」という言葉が余韻のように残る。
読了日:11月18日 著者:アガサ・クリスティー
トラといっしょに (児童書)トラといっしょに (児童書)感想
トラによりそっているトムを見ていると、トラとトムとが一体に見えてくる。何かを始めるときに怖くなってしまうトムの内側から、トラはいつでも「トラはこわくない」と声をかけてくれるだろう。トムが「もう なんにもこわくない」というまで、一緒にいてくれるだろう。こんなトラといっしょに、こどもの時代を過ごせれば幸せだと思う。
読了日:11月17日 著者:ダイアン・ホフマイアー
すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)感想
ぞっとしながら読んでいたはずなのに、妙な既視感とともに、そんなに異常じゃないかも、と思えてくる。すでに私たちはディストピアに暮らしているのではないか。「確かに現実はおぞましい――けれども、嫌悪を催すほど切実なものであるからこそ、この現在の現実は素晴らしく、意義深く、この上なく大切なのだ」ジョンの言葉が心に残る。
読了日:11月16日 著者:オルダス ハクスリー
樹木たちの知られざる生活: 森林管理官が聴いた森の声樹木たちの知られざる生活: 森林管理官が聴いた森の声感想
訳者あとがきの「樹木は人間に使われることを目的として、ただそこにあるのではない」という言葉、この本を読んでいると直に頷ける。もう木々は物言わぬ木ではない。そして、公園に植えられた木がストリートチルドレンと呼ばれていたことを思いながら、人間が自然界の「ストリートチルドレン」になっていないか、と思っている。
読了日:11月14日 著者:ペーター・ヴォールレーベン
分かれ道ノストラダムス分かれ道ノストラダムス感想
1999年6月6日が物語の始まり。その時代らしい持ち物や流行りもの、細々としたあれこれが懐かしくて(でも忘れていて)忘れっぽい自分に呆れている。今、忘れたくないことは、あさぎの中で何が変わって何が変わらなかったかだ。少女のたどりついた場所をちゃんと見ておかなくてはと思う。大丈夫、ここは気持ちの良い風が吹いているから。
読了日:11月13日 著者:深緑 野分
白昼の悪魔 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)白昼の悪魔 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
なんて凝ったミステリなんだろう。読後感もよかった。恐しい事件であったけれど、この島の明るいイメージは、消えない。被害者のことをトラブルメーカー、一種の妖婦だと思って読んでいたけれど、今はそれよりも彼女が哀れで、その死を惜しむ気持ちの方が強くなっている。これは、ポアロ・マジックかと思う。
読了日:11月11日 著者:アガサ クリスティー
郷愁のモロッコ郷愁のモロッコ感想
読んでいると時々少し苦しくなる。語られる一章一章が儚い夢のように思えて。彼らは、やがて英国に帰る。モロッコでの時間は、閉じたユートピアのようだ。ここでの暮らしはタイムポケットのように人生のどこにも繋がってはいない。それとも、どこかに繋がることがあるのだろうか。この閉じた空間が愛しい。独特の美しさがある。
読了日:11月10日 著者:エスタ フロイド
木はえらい―イギリス子ども詩集 (岩波少年文庫)木はえらい―イギリス子ども詩集 (岩波少年文庫)感想
再読)この詩集を読みながら、わたしはけらけら笑っている。(時々ほろっとしたりも)笑いながらちょっとだけうらめしい気持ちになる。あーあ、いつのまにこっち側に来ちゃったのだろう。わたしだって以前はそっちにいたのに。だから子どもたち、覚悟しなさい。いつかあなたたちもこっち側だよ。信じられない?今に見ていなさい。
読了日:11月08日 著者: 
この本を盗む者はこの本を盗む者は感想
いつのまにか、深冬のあとを追って、のめり込んで読んでいた。それは、まず、イカれた世界ではあるけれど、しっかりミステリで、二重三重の仕掛けに目が離せないから。それから、いつのまにか、このブックカースが、実は深冬の心の内とリンクしている、もしかしたらリアル以上のリアルなんじゃないか、と感じ始めたから。
読了日:11月07日 著者:深緑 野分
杉の柩 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)杉の柩 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
誇り高く正直なエリノアがどんどん好きになっていく。でも彼女は殺人容疑者として法廷に立っている。彼女は本当に犯人なのか。物語には、いくつもの恋が絡む。相手を思う、その思い方や気分はほんとうに多様で、どうしようもないけれど、なんともほほえましいことだ。
読了日:11月06日 著者:アガサ・クリスティー
バージェス家の出来事バージェス家の出来事感想
バージェス家の三人の物語と隣人のソマリ人の物語は布の裏表だ。なんとなく遠巻きにしながら近づきかねている町の二つの塊の間に投げ込まれた事件。厄介事は解決したものもあればしないものもあるが、(慎ましいあの人がもし何も言わなかったら知らずに終わった)その小さな物語が心に残る。物語全体の色さえも変えた。
読了日:11月05日 著者:エリザベス ストラウト,Elizabeth Strout
マノン・レスコー (光文社古典新訳文庫)マノン・レスコー (光文社古典新訳文庫)感想
そもそもシュヴァリエはマノンのせいで転落の一途を辿ったのか。もともとの愚図さが露わになっただけではないか。マノンに会わなかったとしても、この先あちこちでボロを出し続けるような気がするのだけれど。マノンに出会ったことがシュヴァリエの不幸であるなら、シュヴァリエと出会ったことがマノンの不幸とも言えるんじゃないか。
読了日:11月03日 著者:アントワーヌ・フランソワ プレヴォ
団地のコトリ (teens’best selections 54)団地のコトリ (teens’best selections 54)感想
見たくないものを見ないですましてきたせいでそこにいるのにいないことになってしまっている人たちがいる。陽菜は、今の美月が抱えた漠然とした不安がまるで形になって現れたみたいだ。美月がここから自分自身の将来のことを考え始めることが心に残る。中学三年生としての美月から陽菜への、まず最大級の敬意でもあるように思えた。
読了日:11月01日 著者:八束 澄子

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