『南風(みなみ)吹く』 森谷明子

 

南風(みなみ)吹く

南風(みなみ)吹く

  • 作者:森谷 明子
  • 発売日: 2017/07/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

瀬戸内海の五木島。県立高校の五木分校がここにあるが、再来年には閉校になることが決まっている。
「このまま高校生活を終わりたくない」という三年生の広河日向子の呼びかけで結成された(というか無理やりかき集められた)文芸部五人が俳句甲子園を目指す。俳句などこれまで全く興味なかった三年生の航太を中心に物語は進む。

 

『春や春』の続編のつもりで読み始めたのだけれど、「続」ではなくて姉妹編だった。
『春や春』の茜たちが目指した俳句甲子園を、同じ年に、こちら、五木分校も目指しているのだ。(『春や春』の面々の姿が、遠景のようにちらちら見えるのがちょっと嬉しい。)

 

俳句甲子園を目指すメンバーを集めるところから物語が始まるあたり、『春や春』と一緒……のはずだけれど、ずいぶんいろいろなことが違っている。
『春や春』の藤ヶ丘女子高校は東京の私立の進学校。メンバーだれもが、どちらかといえば裕福な家庭の子で、それぞれ、少なくても高校生活に専念できる環境が整っていたと思う。
かたや、『南風吹く』。
周囲を海に囲まれた島の、たった一つしかない分校には、少ない生徒数ではあるが、その内訳は多彩で、いろいろな家庭環境、能力の生徒が集まっている。
それぞれの家庭のありようは、子どもたちの進路選択に深く関わる。進学、就職。家業を継ぐこと。島を出るか出ないか……
いろいろ鬱陶しいこともあるが、彼らの郷土に対する思いは、(たぶん、都会の高校生たちよりも)強くて深い。
『春や春』同様、俳句に夢中になり、言葉を深く追求していく高校生たちだが、置かれた状況によって、取り組み方はずいぶん違う。
生まれる句も違う。おもしろいと思う。

 

そして俳句甲子園だが……
高校生たちが勝ち負けを賭けて大舞台に立つ物語でありながら、『春や春』を読んだ読者には、この大会の結果が、すでにわかってしまっているではないか。
それでも、なお俳句甲子園に挑む高校生たちを描く、ということは……
それ以上の何をこの物語は隠しているのか。どんな景色を見せようとしているのか。
「俳句はそんなに小さいものではない」とは、『春や春』に出てきた言葉だけれど……
物語は答える準備を整えてラストに向かっていく。読者に大きな景色を見せるべく。

 

……楽しかった!!