『白昼の悪魔』 アガサ・クリスティー

 

 

なんて凝ったミステリなんだろう。真相にたどり着ける読者っているかしら。
おもしろかった。
舞台は、美しいホテルが一軒しかない本当に小さな島。この島全体がホテルのプライベートな庭みたいなものなのだ。
リゾート地での殺人事件なので、『ナイルに死す』を思い出したけれど、『ナイルに死す』のスケールの大きさやゴージャスさに比べると、こちらは、舞台も狭いし、ちんまりした感じだ。そして、それだけに、いろいろきめ細かく、凝ったイメージがある。
おもしろさの内訳(?)を書けないのがつらいけれど……びっくりした、というよりもすっかり舌を巻いた。


ホテルの泊り客の一人が殺害される。
恋多き元女優で、この島に家族と共にやってきたのも実は愛人との密会(それがなんともあからさまなのだが)が目的だった。
彼女に恨みや不快感を持つ人は大勢いた。


犯人は、島の外から来たのか、泊り客のなかにいるのか?
ポアロは、いろいろな状況から、まずは泊まり客のなかに犯人がいる、と推定する。
調べれば調べるほどに、被害者にも、泊まり客にも、いろいろ隠していた(これからも隠していたい)事情があり、それらが、次々にぽろぽろと出てくる。
例によって、生きてここにいる人たち全員がなんだか怪しいのだ。もう誰が犯人でも驚かないぞ、と思っていたのだけれど、やっぱり驚いている。
また、その犯人の暴き方が見事で……。


読後感もよかった。
恐しい事件であったけれど、この島の明るいイメージは、消えない。
被害者のことをトラブルメーカー、一種の妖婦だと思って読んでいたけれど、今はそれよりも彼女が哀れで、その死を惜しむ気持ちの方が強くなっている。