『ハロウィーン・パーティー』 アガサ・クリスティー

 

 

ハロウィーンパーティーで、13歳の少女が、殺人の現場を目撃したことがある、と言い出した。
人の気を惹くために大げさな話をでっちあげたり嘘をついたりするのが日常茶飯事だった子なので、誰も本気になどしなかった。
だけど、このあと、パーティーの舞台裏で起こった殺人事件は、この子の言葉がきっかけだったのではないか、と居合わせた推理作家アリアドニ・オリヴァは考えた。
それで、この殺人事件を、友人のポアロのところに持ち込んだのだった。


犯人は、やっぱりあの人だったのか……やっぱり、というのは私の場合、「それは、思いもかけなかった」という意味だけれど、作者の手の上で右往左往するのも楽しいからいいのだ。


何よりも、この本の楽しみはハロウィーン
まずはイギリスのハロウィーン・パーティーに興味津々。
箒の柄競争、リンゴ食い競争、小麦粉切り……手鏡に未来の結婚相手を映して見せる仕掛けや、幻想的でスリリングなスナップ・ドラゴンなど、イギリスではパーティーでのポピュラーなゲームなのかな、どれもおもしろそうだ。
準備や後片付けを思うと気が遠くなりそうだけれど、全力で子どもたちを楽しませようとする仕掛け人たちが素敵だ。


もうひとつ。作品全体の空気が心に残る。
ハロウィーンから始まる物語であり、秋という季節のせいでもあるが、なんともいえない雰囲気がある。
この町には隠し庭園がある。美しい庭師によって造られた美しい庭園だ。そこを訪れたときにポアロはこのように感じる。
「ここにはある雰囲気がある」
ポアロがここで感じたその雰囲気が、この物語全体に漂っているような感じだ。
「それは魔法のようなもの、妖術のようなもの、たしかに美というべきもの、おずおずとしてはいるが、しかも野生的な美があった……そこには恐怖もあることだろう」
そして、この庭園を遊び場のようにする美しい少女がいる。まるで森の妖精のような少女。


バカバカしいくらいに賑やかなハロウィーン・パーティーと、雰囲気を湛えて神秘的に静まる庭、そして殺人。不思議なアンバランスが、逆に不思議な均衡を生み出しているようで、この物語に独特な空気を与えているようだ。


それから、ポアロの犯罪捜査に、絶妙なチャチャを入れつつ協力する推理作家オリヴァ夫人のおとぼけぶりがなんともすてきだった。
途中、彼女の作品の登場人物がどのように生まれ、そこからどんな物語に発展していくか、ということを解き明かしてくれたところがあり、なんと嬉しいサービスだろう、と思った。
この人はポアロのシリーズに何作か登場しているそうなので、次の出会いを期待したい。