『オリエント急行の殺人』 アガサ・クリスティー

 

 

真夜中、寝台列車の通路を去っていく真っ赤なキモノふうガウンの後ろ姿。背中で竜の刺繍がゆらりと揺れる。
オリエント急行の殺人』というタイトル名を聞くと、いつも鮮やかに浮かんでくるイメージだ。
この本は、高校生のころに、ミステリ好きの友人に借りて読んで以来、すごく久しぶりの再読だ。
ほとんど忘れてしまっていたけれど、犯人が何者かは覚えていた。忘れられない驚きだったのだ。


イスタンブールトリエステ→カレー。
何事もなければ、何日もかけて豪華列車でヨーロッパを横断する。なんと豪華な旅だろう。
よし、贅沢な旅を楽しもう。


季節は真冬で、大雪に閉ざされた真夜中、列車は立ち往生してしまった。復旧の見込みのない車内で、老人の刺殺死体が発見される。
たまたま乗り合わせたポアロは、友人(寝台車会社の重役)に、事件の捜査を依頼される。
寝台車はほぼ満員で、「あらゆる階級とあらゆる国の人びとが集まっている」
雪に閉じ込められた列車のなかである。この寝台車に乗り合わせた人々のなかに犯人がいるのだ。
印象に残る乗客は、身分や老若に関わらず、毅然とした姿の、あの人、この人。


だけど、犯人がわかり、犯行の動機も、犯行の手順もわかっていても、解決にはならないんじゃないか?と読みながら気がついた。
そして、その肝心な解決法をすっかり忘れてしまっていた。読みながら、ずっとそれが気がかりだった。できれば解決などしないほうがいいのではないか、とさえ思った。
正義って何だろうと考えて、そう考えてしまうような背景がそもそもあんまりじゃないか、と思ったりする。
ポアロは、この事件にどう決着をつけようとしているのか。探偵は孤独だ、とつくづく思う。