『アクロイド殺し」 アガサ・クリスティ―

 

 

 

読む前から犯人がだれかわかってしまっていた。
本当は、最後までまっさらなまま読んで、びっくりしたかったけど、有名な作品ですものねえ、仕方ないよねえ。
それでも、この本を読むのは楽しかった。
犯人を指し示すサインを探しながら読む。絵本『ウォーリーをさがせ!』を読んでいるみたいな気分で。
つい読み流してしまいそうな、あの言葉、この雰囲気、この沈黙、間が、文章の間から、浮き立ってくるようで、その都度、そら、みつけた、と思う。
そして、アリバイ。犯人の周辺には、解決してみなければわからないことがいろいろある。


だけど、あのときもこのときもあの人は何を考えていたのだろう。場面場面でのあの人の沈黙には、さまざまな理由が透けて見えて、犯人の陰湿さが鬱鬱と伝わってくる。
さらに……ボアロはどこで犯人に気がついたのか。犯人告発に向けての悩みとその理由も手に取るように見えてくる。
関係者たちの間に深く入って捜査を進めてきた探偵、関係者誰とも思いを分かち合うわけにいかない探偵。辛いね……。


ロジャー・アクロイドが殺されたのは、彼が思いを寄せていた未亡人フェラーズ夫人の死後すぐだった。
疑われたのはロジャーの義理の息子ラルフで、彼は姿を眩ませている。ラルフの従妹で許婚のフローラは、真犯人を探してほしい、とポアロに依頼する。
ポアロは、アクロイドの屋敷に居合わせたすべての人から話を聞いた後に、ここにいる全員が何かを隠している、と告げる。


殺人の動機について考えれば、ここに集う全員に、動機はある。
だれもが多かれ少なかれ、アクロイド氏が亡くなってほっとしている。
村の名士。財産家。大きなお屋敷。それなのに、なんとも虚しいことだ。
実際、いろいろ問題があった故人だったが、亡くなってみれば、遺された人々それぞれにかけていた思いが知れて、切なくなる。


最後まで読んで、もやもやは残る(どう転んでもすっきりはしないのだろう)けれど、せめて後の人々が心穏やかにすごせれば、と思う。結ばれたものもあったりして、ね。